第38話
みんなの元へ戻ると、私はなんとも言えない視線に晒された。
璃子、晴恋、姫都は困惑の、原山はなぜか悔しそうな、月見は鋭い視線を私に向けている。伊集院だけ顔を赤くして視線をそらしているが、たまに私を見る時の視線は不愉快だった。悪いのは私だから我慢するけど。
私の横でシオンは、言うんですよね? と笑みを浮かべて訴えている。
私とシオンはみんなの元へ戻る途中、あの事をみんなに言うか相談した。結果、注意喚起も兼ねて協力を仰ぐことにした。
けれどその前に……。
「えっと……伊集院、原山ごめんなさい」
私は深く頭を下げた。
「あまり気にするな高田。わざとじゃないんだろ?」
「そうさ、気にすることないさ。結果的に僕は得したからね。原山君はあまり役に立たない頑丈さを使えてむしろ感謝してるくらいさ」
原山は言葉通りその事に関しては気にする素振りは特にないが違う事に関心が言ってるが気がする。伊集院は頓珍漢な事を言い、私を庇ってるのか原山をバカにしてフォローした。
「冗談は置いといて、さっきは驚いたよ。高田さんが僕の計算外な行動をしたからね」
伊集院が計算予測出来ない。本当にさっきの私は精神的に異常だったらしい。
私は頭を上げて言う。
「伊集院、さっきの私はそんなにおかしかったか?」
「さあ? よく覚えてないね。かわいかったのは覚えてるけどね」
なんであの状況でかわいいとなるのだろうか? 普段以上に意味がわからない。
数瞬の沈黙。シオンの急かす空気。私は意を決して言う。
「みんなに話しておかなければならないことがある」
今までとは違う空気が場を支配する。私の一言でみんなが真剣な眼差しになった。
「えっと……私はこの場から離れてた方がいいかな?」
姫都が遠慮気味に言った。私は姫都を見て返す。
「いや……姫都もここにいろ。確か朝山だよな。たぶんあんたも無関係じゃないから」
私の言葉にむしろ姫都以外が顔を強張らせた。
「姫路さんが関係あるってどういうことだい?」
伊集院が言った。
私は周りの雑踏を見渡して言う。
「姫都どころか朝山から夜山の奴らはみんな無関係じゃないと思う」
「そんな大事なのかい?」
「私も今朝までは大事じゃないと思ってたんだが、聞いた話だと国家レベルの大事らしい」
私は北乃先輩に聞いた原因、現状、解決策と今まで私の経緯をみんなに話した。
誰も彼も絶句だ。
当然の反応だな。私も最初聞いた時は意味不明だったから。
最初に沈黙を破ったのは晴恋だった。
「嘘じゃないですよね」
「嘘か本当かは晴恋自身が一番わかってるだろう?」
晴恋は黙って頷いた。
「その北乃奏とかいう先輩も相当ヒドいね。なんの能力もない普通の女子に頼むとか頭おかしいんじゃない?」
伊集院が飄々と至極真っ当なことを言った。
「伊集院、一応言っておくとあんたはすでに被害にあってるからな。球技大会のあいつだ」
伊集院は険しい顔をして言う。
「へぇ、まともじゃないのか」
伊集院はあの時初めて予測が外れたと言っていた。
璃子は私の話を聞いてからずっと俯いている。
別に璃子が気に病む必要ないのに。
「璃子……あんた、あいつのこと覚えてるか?」
璃子が顔を上げて言う。
「あの女?」
「違う。ぬいぐるみを持った女の子の方だ」
「あの女の子か……元気かな?」
「その女の子だが……璃子とあの女はその女の子に仕組まれたわけだ」
私と璃子が会話している時に原山が慌てて割って入る。
「ちょっと待ってくれ鏡華。さっきからお前は何を言ってるんだ?」
「あの事件の実行犯は変な女で計画犯は名も知らない幼女だって話だ。璃子、頼みがある」
「な、何かな?」
璃子は嬉しそうに返した。
「その女の子の所在を璃子の使える権力を駆使して突き止めてほしい」
まずはこの状況を作り出した奴──悪神童。とりあえず奴が何か権力と繋がってないかを見極める。そして、北乃先輩と一緒に悪神童と直接会い、この状況を意図的に作ったか聞く。
悪神童が政府や何かの団体と繋がってたら、それならそれでいい。問題は悪神童がただの幼女だった場合だ。なぜなら、ただの幼女でありながら今の状況を作り出せるとしたら、人間として完全に化け物クラスだ。
私にも昔、あの位の時に同い年で神童で友達だった子がいたが、あそこまでぶっ飛んだ思考はしていなかった。
「その女の子とやらは僕や滝沢さんより頭が良いのかな?」
伊集院が興味津々に言った。月見も好奇な目を私に向けている。私は伊集院の質問に簡潔に答える。
「伊集院の予測は絶対通じない。策士としては月見より上だな。勘だが」
むしろ私の答えに驚いたのは件の二人と姫都以外の奴らだった。
「月見や風麿より頭が良いんですか?」
シオンが言った言葉に私は口に出さず返した。
頭が良いというか頭が悪いと言うべきかもしれん。
「まあ、この話は後だ。私を魅了した人形はどうなった? まだあるか?」
「あの人形なら売れたよ」
姫都が言った。
「本当に?! どんな奴だった?」
「浴衣着た私達と同じくらいの女の子だったよ」
私は頭を抱えた。
魅了されたか? 別にあの人形に魅了されただけだったら問題ないが、もしそいつが私達のやりとりを見て何かに感づいて人形を回収したならヤバい。
なぜなら、回収した奴は常時相手に対して人質を取っている状態になるからだ。もはやそうならないように祈るしかない。
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「で? あなたはあの人形を回収できなかったわけね」
「すまない。北乃」
「回収した人は見たのかしら?」
「一応な」
「誰?」
「夕山学園のあいつだ」
「夕山学園のあいつ……あぁー! もう! あの変態ドールマニアか!」
「ああ」
「面倒な人に回収されたわね。面倒な人が面倒な物を回収して益々面倒じゃない」
「本当に人形に関してだけは確認できる限り回収されてるからな」
「そうね。あの変態があの人形を回収したということは近々、夕山学園内部の生徒間勢力が変わるわね」
「だろうな。最近妙だしな。ところで北乃は朝山学園、昼山中学、夕山学園、夜山中学でそれぞれ規格外──いや、最強な奴を一人あげるなら誰だ? 朝山と夜山は決まりだろうが……」
「夕山は誰かしら? 高田鏡華の友達のあの娘か変態ドールマニアのどちらかね」
「昼山は?」
「総合的能力と規格外な運動能力だけなら高田鏡華ね。だけどあの娘は超常的能力がないのが痛手ね」
「元から超能力者なんて夜山のあいつくらいだろ……」
「とりあえず注意だけはしとこうかしら。問題山積みね」
次回は『臆病者・神代善人さらに人格・善』です。




