第34話
私は食堂で唐揚げ定食を頼みそれを乗せたトレーをテーブルに置き、北乃先輩と中山先輩に向かい合うように座った。
私は手を合わせ、いただきますと言って箸を持って二回目の朝食を食べ始めた。
「あなた大食いなのね」
北乃先輩が気さくな笑みで私に言った。
「朝食食べてないんですよ」
「だけどあなたの守護霊が私に告げ口したわよ」
よくわからないけど私の守護霊は本当に私の味方なのか?
「そんな大食いなのに痩せてるのね」
「運動すればいいじゃないですか。それに私は痩せてません」
「あの~、そういう女子特有の会話は男子のいないところでしてくれないかな?」
私と北乃先輩の会話に気まずそうに中山先輩が割って入った。
「そうですね。別に私の体型なんて今は問題ではありませんね」
私は食べ終わった皿を除けた。
「それでは本題に入りましょうか。北乃先輩」
北乃先輩は目を閉じ一拍置いてから目を開けて言う。
「まず『悪意』とは何か? それはそのままの意味。『悪意』は悪意よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。正直な話、あの時に言った事以上のことはないのよね」
あの時とは夏休み入る二日前に聞いたあのことだろう。
「じゃあ別のことを聞きましょうか。『悪意』はあらゆるものを歪ませるとはどういうことです? あの言い方だと球技大会の時みたいな人格が歪むとかだけじゃないように聞こえるのですが」
北乃先輩は不敵に微笑む。
「察しが良いわね。正にその通りよ。こちらも独自に調査した結果の話だけど『悪意』は人間の人格だけでなく体質や動物の性格体質、果ては道具の機能まで歪ませる。こちらで確認し、対処出来たものだけでも今のところ実に人間9人、動物2匹、道具3点よ。手に負えないものも含めればこれ以上の数になるわ」
私は沈黙する。
おいおい、想像以上に大事じゃないか?
「新たに生まれたいくつか質問よろしいですか?」
「どうぞ」
「人間の体質が歪むとは? 動物の性格や体質が歪むとは? 道具の機能が歪むとは?」
「人間の体質から答えましょう。これは言葉通りの意味ね。例えば超能力とかね」
いきなりぶっ飛んだな。だけどこれに関しては目の前に証明がいるからな。
「まあ、超能力といってもサイコキネシスとか火を操るとかはないみたい。どちらかというとESPみたいなのね。テレパシーとか心を読むとか。動物の歪みも人間と似たようなものと考えてもいいわ。問題は道具ね……」
「う~ん……。例えば呪いの藁人形みたいなものとか?」
「そうね。それも一つね。実際対処した道具の一つに藁人形あったし」
「じゃあ道具はそちらに任せれば良いのですか?」
ところがどっこい、と言い今まで会話を聞くだけだった中山先輩が会話に混ざる。
「何も道具の機能が歪んだ結果必ずしも霊的なものになるとも限らないんだ」
私は黙考する。
「…………例えば必ず1が出るサイコロとか?」
私の質問に北乃先輩が答える。
「微妙な例えだけどそういうことね。実際、持ち主を悪い方向に導く予言のノートとかあったし」
ついに予言のノートまで出たんだが。
「心配しないでちょうだい。霊的な事はこちらで処理するから」
「霊的な事以外私に丸投げですね」
たぶん私は意地の悪い笑みを浮かべているだろう。
「前にも言いましたけど警察に頼めばいいじゃないですか」
「残念だけど警察は一切協力してくれないわよ。警察どころか国の手にかかった人達──教師も手を貸してくれないわよ」
は? こいつは何を言ってるんだ?
「あなたの間の抜けた顔なんて始めて見たわ」
「理由は──」
「理由は簡単」
北乃先輩が私の話に割り込む。
「政府は私達学生──引いては朝山から夜山までの住民と『悪意』を戦わせる。奴らは事の重大さもわからず私達住民を実験に使い、人間の進化と道具の進化を促そうとしてるわ。アニメ的に言えば生死を賭けた『人類進化計画』ってところかしら? いえ、『悪意のサバイバルゲーム』とか?」
想像以上の大事に頭が痛くなる。
今の話が本当なら子供の私に何ができるか甚だ疑問なんだが。
北乃先輩は続ける。
「こうなると一条璃子が巻き込まれた事件は政府の作為的ななものとも取れるわね」
「それはないな」
「どうして?」
なぜならあの事件の真犯人は生まれながらにして普通の家柄、異常人格の天才──悪神童と私が呼ぶ少女なのだから。
あれから会ってはないが。だがあの頭脳なら政府と繋がってても不思議じゃない……か?
「私みたいな子供が事件を解決したんですよ。政府のやったことにしては稚拙過ぎると思います?」
北乃先輩が訝しい顔で考え込み言う。
「それもそうね。いくらあなたでも政府のやったことを止められないわよね」
政府は頼りにできないということか。まあ、『悪意』で超能力者が出現するなら傍観も当然といえるか。
「結局どうすれば解決するんですか?」
どうであれ、問題はそこに集約する。
「時間が解決するわ」
「時間? どのくらいで?」
「長く見積もって八ヶ月かしら」
私は目を閉じて考える。
案外短いな。璃子の事件から逆算すると既に3分の1の期間が終わっているのか。けどこの四ヶ月、北乃先輩の話だと『悪意』絡みの事件は15件だけ。いや、15件もあるのか。
「だからね。あなたも友達に協力してもらいなさい」
私は目を開き、北乃先輩を睨む。
「友達を危険な目に合わせるとか本末転倒でしょう」
北乃先輩は肩をすくめて呆れたように言う。
「あなた……八ヶ月は短いとか思ったでしょ? 八ヶ月は長いわよ。そんな考えじゃあなた死ぬわよ。それこそ本末転倒じゃないかしら?」
私はうつむく。
「それにこっちから協力を頼んで難だけど、今やあなた一人の問題じゃないのよね」
「そうですね。注意は促すべきですね」
所詮は身から出た錆だ。命の危険があるのに璃子達を巻き込めるか。
私は時計を見る。
もうすぐ12時か……。姫都との待ち合わせは1時だったな。
「先輩方、話はこれで終わりですか?」
「そうね。今のあなたと話をしても無駄ね」
「私は協力しますよ。だけど私の大切な友達を巻き込むのはやめてもらいましょうか」
私は立ち上がり鞄を片手で持った。
「個人的にはあなたの友達はすごいから助けになると思うんだけど」
「なるほど、狙いはズバ抜けた才能を持つ私の友達でしたか」
確かに月見も晴恋と伊集院もすごいからな。なるほど、私は利用されたわけか。
私はトレーをもう片方の手で持ち言う。
「失礼します」
私は先輩達の席から離れた。
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「ムカつく娘ね」
「いや……あれはお前が悪いだろ」
「正論じゃない?」
「正論じゃないだろ」
「あの娘考えは正論じゃないでしょ」
「確かに高田の考えは正論じゃないな」
「まったく、とんだ自己犠牲精神ね」
「自己犠牲は愛と言われてるが?」
「行き過ぎた自己犠牲なんてただの人格破綻者よ」
「ふ~ん。お前にはそう見えてるのか」
「どういうこと?」
「なんでもない。そんなことよりお前も2時から神社で何かやるんだろ?」
「そうだったわ」
プロットから外れて来た気がする




