第33話
大矢 雛萌 : おおや ひなめ
日曜日の朝。
私は肉体派魔法少女アニメを見ながら考え事をしていた。
今日、昼山では昼山駅を中心に屋台の並ぶ祭りがある。まあ、朝山、昼山、夕山、夜山は祭りなどのイベントを合同でやることなど珍しくない。かくいう今日の祭りも4町合同4週連続祭りの第2週の昼山祭りだ。
まあ、その前に朝山、昼山、夕山、夜山とはそれぞれどんな町なのか説明しよう。
朝山町。4つの町の中で一番東側に位置する町。この町の特色はなんといっても芸能人や将来有望な芸術家の生徒達が通う中高大一貫校の私立朝山学園だろう。
昼山町。最大の特色は北乃神社という大きな神社があるくらいだ。後、私が通う公立昼山中学校があって朝山と夕山の町からも生徒が集まる。理由は単純。その2つの町には私立の中学校しかないからだ。
夕山町。大富豪である桃園家がある。また、お金持ちの坊ちゃんお嬢さんが通う中高一貫校の私立夕山学園がある。また、最近妙な噂が流れる町だ。
夜山町。他の町はただの田舎町だが、ここは最近開発された所謂ニュータウンというやつだ。ここには公立夜山中学校がある。夜山と夕山から生徒が集まる。
正直、どの町も学校を特色としているところがある。それっぽく説明したけど、つまり普通の町だ。
今日の話に戻そう。いや昨日の話に戻そう。
私は昨日3つの約束をしてしまった。
璃子達と祭りへ行く約束。姫都と祭りへ行く約束。北乃先輩に詳しい話を聞く約束だ。
北乃先輩との約束は午前中に聞く予定だからあまり関係ない。いや問題あるが。そんなことより問題は他の2つだ。実は一番最初に約束したのは姫都なわけだが、かといって璃子達との約束も無視できない。
璃子達と姫都と一緒にとも考えたが、いくら姫都がアイドルでも疎外感を覚えるのではないかという懸念がある。
ちなみに今日祭りに行く奴は璃子の他に月見、シオン、晴恋、伊集院、原山だ。
今思い出してもムカつくな。
3日前の事だ。
私が部活動で学校に行くと学校にいた女子からは不機嫌な態度と熱い眼差し、男子からは嫉妬の視線と賞賛の嵐だ。ひどいのは女子からの不機嫌な態度だ。女子に姫都とキスするのはズルいとか意味のわからないいちゃもんを付けられた。
文芸部でも似たようなものだ。部長と原山は心配した。寺スは引くぐらい私を持ち上げた。月見と晴恋には私に笑えと言った。シオンは素直に感心していた。伊集院は気持ち悪い笑みを私に向けた。璃子は不機嫌だった。
姫都が女子にも人気なのは知ってたが、たかがキスで男子にならともかく女子にあんな理不尽な事を言われるとは思わなかったな。だが、月見と晴恋の意味不明な要求の方が理不尽だったが。
笑顔を作れと言われ、笑顔を作れば駄目出しされ、いつの間にか部員以外のギャラリーも集まってとんだ羞恥プレイだった。
いつの間にか肉体派魔法少女アニメも終わっていた。
「鏡華お姉ちゃん」
「なに彩七?」
私は声のする方向に振り向くとドアの傍で彩七が水色のワンピースを着飾っていた。長い髪は総髪にしている。
「どう?」
彩七が裾を持ち上げて私に聞く。
どこのお嬢さま? 水色好きだな~。
「似合ってるよ」
「そう?!」
笑顔で答えた彩七はその場で一回転した。スカートがフワリと浮き、健康的な足がチラリと見える。
「お姉ちゃん心配だわ~」
「何が?」
私の思わず出た言葉に彩七が聞き返した。
「最近物騒だからね」
彩七の頭の上に疑問符が見えた気がした。
「早く行けば? 10時集合じゃないの?」
「そうだね。行って来ます鏡華お姉ちゃん」
別れを惜しむように彩七が家から出て行った。
私はリモコンでテレビの電源を消して一人呟く。
「まあ、私も10時に待ち合わせだがな」
私も璃子達と10時に待ち合わせしてたんだが、北乃先輩にも10時に学校に集合だと言われた。
私だって遊びに行きたい!
だけど北乃先輩の話も無視出来ない内容で……。
まあ仕方ないな。
私は時計を確認して二階に上がり、自分の部屋で制服に着替えながら考える。
よく考えたら姫都のアイドルという肩書きに騙されがちだが璃子達のよっぽど変わってるな……。月見もいるし大丈夫だろ。…………いや、月見が一番不安要素だな。
私は制服に着替え終わると眼鏡を掛け、鞄を持ち一階に下りた。
リビングにある椅子に鞄を置き、ゴムで長い黒髪をまとめてポニーテールした。
「行くか」
私は再び鞄を持ち家を出た。
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私は学校に到着し下駄箱でスリッパに履き替え廊下を歩いていると、目の前から一人の女子生徒が歩いて来た。
亜麻色で緩やかでふわふわな長い髪、それにマッチするように栗色の目はパッチリしていた。小柄な体躯は否が応でも庇護欲をそそる正に美少女だった。
日曜日に学校とは偉い奴だ。
すれ違い様にその女子は暖かいと形容できる微笑みを浮かべ軽く会釈して私に言う。
「こんにちは鏡華様」
突然の様付けに驚き私も思わず会釈して言う。
「こんにちは。え~と……?」
その時、チラリと見えた女子の可愛い口は悔しさに歪んでいるように見えた。
誰だ?
私は気にせず、食堂へ向かうため前を向き歩き始めた。
その時の私は本当に運が良かったとしかいえなかった。
あのまま目を合わせていたら私はその女子に魅了されていたのだから…………。
その女子──小学校時代に助けた少女、大矢雛萌に。




