第29話
姫路姫都とは私と同じ年齢の大人気中学生アイドルである。その小動物みたい可愛い見た目とキャラクターで引っ張りだこ。つい最近だと名前は忘れたがセカンドシングルを出していた記憶がある。
私自身、姫路姫都は好きだがファンというわけでない。
そんな私達二人はファミレスでテーブル越しに向かい合い昼ご飯を食べている。あの後強引に連れて来られたわけだが……。
最近気付いたけど私って女の子の押しに弱いな~。
奢って上げると頑なにに聞かない姫路姫都に押され、私は一番安いセットを注文した。姫都ちゃんも同じメニューを注文した。
「えっと鏡華ちゃんだよね。どんどん食べてね!」
姫路姫都がニコニコと促す。
とりあえずわかったことがある。テレビで見るより実物を見た方が可愛いという現象は実在してたということだ。
「鏡華ちゃんってすごいんだね! あっという間に男の人がバタバタと倒れたね」
「アイドルのあんたの方がすごいだろ」
「えへへ」
姫路姫都が照れた。アイドルってオーラが違うな。
「鏡華ちゃんの髪って綺麗だよね。羨ましいよ~」
「あんたの髪も可愛いよ」
姫路姫都がさらに照れた。
ヤバいな私。さっきからオウム返しじゃないか。なんだかんだでファンじゃなくても有名人相手はテンションが上がるな。
「鏡華ちゃんはどこに住んでるの?」
「昼山」
「近いね! 私は朝山なんだ!」
私は姫路姫都と目を合わせる。目がキラキラしてた。
「朝山ってことは朝山学園か?」
「うん。そうだよ!」
「あそこは芸能科があるからな」
朝山学園といえば芸能科や芸術科といったちょっと変わった科がある。そういえば、元々月見は朝山学園に行く予定だったが変えたんだよな。
「思ったより家近そうだね! メアド交換しようよ。私、鏡華ちゃんと友達になりたいな!」
なんてストレートな娘なんだろうか。
私は黙って携帯を渡した。
姫路姫都は自身と私の携帯を操り、メアド交換をした。
「はい!」
姫路姫都は私に私の携帯を差し出し、私はそれを受け取った。
「鏡華ちゃんってもしかして羅刹女さん?」
私は一瞬固まった。
「やっぱり知ってたのか」
「うん……でも噂程怖くないね! 私もっとゴリラでヤンキーみたいの想像してたよ!」
「ゴリラでヤンキー……」
「でも実物は髪が長くて綺麗でこんなに可愛い女の子だったんだね!」
姫路姫都の無邪気な笑みに私は絶句する。
おいおいマジか?! この娘素でこのキャラなのか! ていうか現実にこんな娘実在してたのか!
私が今見てる姫路姫都はテレビで見たキャラクターそのまんまだった。
大丈夫か私! 顔赤くなってないか? 顔が綻んでないか?
「あ、ありがとうございます」
私は頭を下げながら言った。
駄目だ。私テンパってるじゃないか!
普段そんな事言われない私は、かなり嬉しいけど居心地が悪いようなそんな気持ちだった。
「鏡華ちゃんはなんで──」
その時、姫路姫都の携帯が震えた。姫路姫都は携帯を持ち、ディスプレイを見ると一瞬真剣な表情になり携帯を耳元に持って行く。
「川島さん?」
『あっ、姫都? 決まってしまったわ……』
「何がですか?」
『キスサバイバルの出演依頼』
「今日のですか?」
『ええ、まさかあれに選ばれるなんて……』
「そんな……」
姫路姫都はさっきまでの明るい顔から一転、暗い顔で話しを続けた。
芸能人の仕事ってこんな急に決まるものなのか?
姫路姫都が電話を切ると、無理矢理作った明るい笑みを私に向けた。
「ごめんね。お仕事の電話が来ちゃった」
私は冷静さを取り戻し言う。
「キスサバイバルのか?」
姫路姫都は苦い表情になってうつむいた。
「よくわかったね……」
「すまん。聞こえてた」
耳が良いのも考えものだな。
「出るの嫌なのか?」
「正直言うと嫌かな……。よく知らない男の人とキスしたくないし。それに芸能人の間だとあまり評判良くないし……」
キスサバイバル……。五月から始まった二週間に一度やる生放送バラエティー番組だ。三時間という長さで行われるその番組は女性芸能人の唇を巡って一般人男性達があらゆるゲームをクリアし、優勝した人が女性芸能人とキスが出来るというもので、視聴率75%を取っている。この番組、一見女性芸能人が品物になるというものだが、その実は一般男性達の阿鼻叫喚を見物とする番組だ。例えば、小さい足場の周りに熱いお湯を張りお互いをお湯に落としたり、蛇がたくさんいる道をレースしたり、電気の流れた棒でバトルしたりとするものだ。毎回幾多の怪我人が続出しているにも関わらず未だ打ち切りになっていない。理由は、参加するのが一般男性がほとんどだからだ。月見が言うにはそういう参加者を起用することで見てる側に残酷的な面白さを植え付け、出来る限りの罪悪感を薄れさせているらしい。ちなみに放送時間は18時から21時だ。
姫路姫都は今にも泣きそうだった。
しょうがないな。
「私が参加する」
「えっ」
姫路姫都は潤んだ目で私を見る。
「私が男に混じって参加する。私が優勝してあんたが私のほっぺにでもキスすればいい」
似たようなことは最近やった。むしろ、最近もっと狂ったゲームをやったことがある身としてはぬるいくらいだ。負けはしない。
「でもそれじゃ鏡華ちゃんが危ないよ!」
「大丈夫だ。負けはしない。私はあの羅刹女だからな」
私は静かに言う。




