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Student War ──羅刹女──  作者: 天井舞夜
アルビノ少女・一条璃子
3/86

第3話

 入学式から一週間が過ぎた。

 私と彼女は幸運にも同じクラスになることができた。

 私は席に座り机に頬杖を付いて、彼女と男子の会話の成り行きを見守っている。彼女の壊滅的に似合っていないぶりっこキャラに男子は恐怖している。

 結論から言うと彼女は未だにあのキャラを続けている。しかし、彼女と同じ小学校から上がってきたほとんどの人は本性を知っているし、違う小学校に通っていた人達も見た事がなく

とも彼女の存在自体は知っている人は少なくない。

 羅刹女。

 それが彼女の二つ名。意味は強い力と素早い足を持つ鬼の女。誰が考えたかはわからないけど半分だけ的を射ている。よく誤解されるが彼女は運動能力だけの女ではないということだ。現在馬鹿みたいなことしてるけど。

 つまり彼女のイメチェンは今更遅いということだ。


「ねぇ、一条さん。高田さんの愚行を止めてくださいよ。あれではぶりっこどころか痛い子ですよ」


 横の席から私の友達が言った。


「そうだよね」


 先程から私は彼女のことをかなり馬鹿にしてるが彼女の容姿は悪くない。むしろ整った容姿をしていると言ってもいい。適材適所の問題だ。


「たぶん、あと一カ月もすれば鏡華ちゃん自身が我慢の限界になるよ。賭けてもいいよ」

「そうですね。気長に待ちましょう。では私は食堂で食事なので」


 友達は私に小さく手を振り教室から出て行った。

 彼女は話が終わったのか、友達と入れ替わるように歩いて私の元に来た。


「璃子、お昼ご飯を食べに行こうよ~」

「そうだね。どこで食べるの? 屋上?」

「屋上は恐い先輩がいるからヤダ~」


 うそつき。恐くなんかない癖に。


「じゃあ食堂で食べる?」

「うん!」


 私と彼女は弁当を持って食堂へ向かった。


****


 お昼休みも終わり五時間目の授業が始まった。

 私は机に突っ伏していた。


「お腹空いた」


 私は小さく呟いた。

 私はイメチェンに伴い食べる量を減らしていた。家族の前以外だけだけど。

 美味しそうだったなー。璃子の弁当。

 私は退屈な国語の授業を聞き流して夢想していた。

 璃子の容姿端麗、白に塗られた体は人形のような神秘さと不気味さを持っている。さらに有名な会社の社長の孫娘でもある。あの娘は生まれついてのお姫様体質だろうというのはわかっている。私とは住む環境が違う。私もマンガのヒロインみたいな人生を過ごしたかった。

 理由はわからないけど、あの娘は私のイメチェンに反対みたいだ。態度でわかる。小さくて可愛らしいあの娘に比べたら私など普通だ。普通に生まれた人の気持ちなどあの娘にはわからないかもしれないと思うけどね。


「起立」


 不意に私の耳に女子の声が聞こえた。どうやら五時間目の授業が終わったみたいだ。

 私は周りの人達に合わせて少し遅れて立ち上がり「礼」の声で軽く会釈をした。

 よく考えると授業中明らかに授業を聞いてなかった奴が最後のお辞儀だけ真面目にやっても仕方ない。

 五時間目が終われば帰りのホームルームとその後の掃除がある。ちなみに私は今日は掃除当番ではない。


「鏡華ちゃん。放課後暇だったら部活見学しない?」


 授業が終わると同時に璃子が私の所まで来て話しかけてきた。


「いいよ~。どこ見学するの~?」

「陸上部とかサッカー部とか」


 陸上部? サッカー部? 確かこの娘は運動が苦手なことに加え、体が少し弱かった気がする。それに外での運動となると益々駄目。運動したいということかな?


「だったらバスケとかバドミントンの方がいいよ~。璃子ちゃん太陽に弱いんだし」


 璃子はキョトンとしている。それを見て私もキョトンとした。どうも話が噛み合ってないらしい。

 璃子は納得したような表情を作った。


「違うよ。私はもう決まってるんだ。鏡華ちゃんの部活見学の話だよ」


 ああ私のね。


「ええ~。鏡華~。運動苦手だから運動部には入らないよ~」


 帰り支度をしているクラスメイト達が一斉に私と璃子の方に振り向いた。すぐに数人の女子が私に詰め寄って来た。


「ちょっと高田さん! 考え直して! あなたの足なら短距離で全国を狙えるんだよ?!」

「私、サッカー部の先輩に鏡華ちゃんを誘って来るように言われたんだよ!」

「ソフトボール部に入る約束したじゃん!」


 みんなが私に対して好き勝手言ってくる。全国なんて興味ない。先輩の命令も関係ない。ソフトボールに至っては約束すらしていない。そもそも私はどの部活に入るか決めている。


「みんな待ってよ~。もう鏡華は入る部活決めてるんだよ~」


 璃子を含んだみんな──というよりクラスの全員が驚いている様子だ。


「なんの部活に入るの?」


 璃子が私に言う。聞いて驚くがいい。


「演劇部だよ~」

「「「ええーーーー!!?」」」


 クラスメイト達の教室中に響いた。みんな驚き過ぎだろ。そんなに意外か?


「あっ! 王子様役とかやりたいの?」


 璃子は私に王子役をやってほしいのか? なんで男子がいるのに私がわざわざ王子役をやる?


「鏡華はお──」

「みんなー。帰りのホームルームを始めるぞー」


 私が言葉を発しようとした時、調度クラスの担任教師が戻って来てそれを遮った。集まっていた友達は一目散に自分の席に戻って行った。

 担任は適当な連絡事項を述べて帰りの挨拶をした。

 今週は私も璃子も掃除当番ではないので共に鞄を持って教室を出る。

 教室の前で私は璃子に言う。


「璃子ちゃんはどこの部に入るの~?」


 璃子は鞄から入部届けのプリントを取り出し、それを私に見せ付けた。


「演劇部だよ。鏡華ちゃんも演劇部だよね?」


 なるほど。この娘が入るなら演劇部に用はない。そうでなくてもヒロイン役は先日の部活紹介での演劇部の女子の人数が多いことから抜擢される確率が低く、私は一年生のため主役級をできる確率はさらに低くなるはずだ。だから私はあえて上級生になった時にヒロイン役を勝ち取るつもりだったが、この娘が入部するならほとんど役がこの娘に取られると思う。よくて回ってくる役は女騎士とかこの娘に合っていない役だろう。

 仕方ないので第二候補にしよう。


「いや、文芸部だな」


 しまった。つい素が出てしまった。

私は周りを見渡す。

 不幸中の幸い。声が聞こえる範囲内には誰もいない。この娘を除いて。

 私は璃子に体を向けながらも目を逸らす。逆に璃子は私を見据える。


「鏡華ちゃん、ボロを出したね」


 今のはなかったことにしよう。


「ボロ~? ボロってなんのこと~?」


 私は可愛く首を傾げた。

 可愛く首を傾げれたはずだ。厳しいか?


 ****


 可愛く首を傾げた彼女は少し可愛かった。

 やっぱりそのキャラは意識的なんだ。それにしてもなぜ文芸部になった。


「さっき演劇部って言ってたよね?」

「私本好きなんだ~」


 彼女は答えになってるような、なってないような答え方をした。


「私が言いたいのはなんでいきなり演劇部から文芸部に乗り換えたのかということなんだけど」

「…………」


 彼女は押し黙ってしまった。

 確かに彼女自身は文芸部でも良いと思ってるだろう。実は文学少女だしね。

 問題は私が演劇部に入部するとわかった瞬間に乗り換えた事が問題だ。

 私も黙って彼女の返答を待つ。


「私は演劇部なんて柄じゃないからね。目立つのはちょっと避けたいかなと思ったんだよ。それに……」


 彼女は笑みを浮かべ、私を目で見据える。


「璃子の役を客席から見たいからね」


 彼女に言われて私は照れてしまった。

 駄目。彼女にペースを持ってかれるのは。

 私は彼女から目を逸らしてしまった。


「そういうこと~。じゃあね~。璃子ちゃ~ん」


 彼女はいつもの口調に戻した。

 彼女は私に背を向け廊下を歩いて行く。私はこれ以上彼女に声をかけることはなく見送り──彼女は私の方に立ち止まり振り向く。

 私と彼女の目が交わる。その目はかつての力強い目。

 彼女はすぐに前を向き歩き出した。

 文芸部か……。私が大嫌いで彼女が大好きなあの女がいる。

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