第26話
北乃 奏 : きたの かなで
中山 獅子象 : なかやま ししぞう
あの後、璃子と伊集院と原山は病院へ行った。幸い三人とも、外傷以外の異常は見つからなかった。その翌日には三人とも普通に登校して来た。
球技大会は中止。当然だな。
そんなこんなで今日は夏休み目前の二日前。
私はある二人の先輩に呼び出された。場所はオカルト部の部室だ。私と二人の先輩はテーブルを挟み座っている。
「話とは何ですか? 北乃先輩」
「話というかお願いよ」
北乃奏。二年生でオカルト部の部長。中肉中背で腰まで伸びて前髪パッツンの姫カットの美人。この人は昼山町の中では有名人で、町内にある北乃神社の現巫女さんだ。強い霊感を備え、日本を幾度も救った北乃神社歴代最強の巫女………というのが噂で流れている。実際は知らないが。
「手っ取り早く言うと昼山に起きてる──ひいては日本のピンチを救うのに協力してほしいんだ」
もう一人の先輩。中肉中背で無造作ヘアー──寝癖で黒髪のイケメン。二年生で演劇部、中山獅子象。晴恋の兄だ。
何を言ってるんだ? この人達。
「なんで私? 自分たちで勝手に日本でも地球でも救ってればいいだろ。悪いが私は北乃先輩みたいに霊能力もなければ、ましてや超能力もないか弱い普通の女子中学生だ。第一、私には関係ない」
北乃先輩は意味深に微笑む。
「悪いけどあなたに超能力があるかどうかは別にして、あなたは立派な関係者。さらに言うと一条璃子は中心人物」
「なるほど……聞いてやろう」
なんとなく心辺りがある。霊感のある巫女が私と璃子を関係者という。だとしたら四月のあの事件だろう。確かに無関係ではないな。
「話が早くて助かる。中山君、何から話した方が良いと思う?」
「とりあえず何が起きてるか言えば?」
「そうね。高田さん、簡潔に述べると四月のあの事件の時にあった儀式は成功している」
そう言われても私には確認のしようがない。
私は腕を組み、沈黙で話の続きを促す。
「正確には半分成功半分失敗といったところかしら? 高田さんは何が召還されたと思う?」
召還?
「あの儀式は神になるための儀式じゃないのか?」
「どうしてそう思う?」
「あの事件の犯人が神になるとか喚いてたから」
なるほど、と北乃先輩は呟やき黙考する。
「今言ってる半分失敗に当たるのはそれかしら」
「半分成功は儀式の発動か? 神でも召還されたか? 悪いが、何が召還されたかは知らんが普通の人間の私にはどうすることもできなさそうだ」
「逆よ。神や悪魔の類ならあなたを巻き込むような真似はしない。今回の件はむしろ私では出来ることが少ないのよね。……だって私は霊能力を除けばただのか弱い少女だから」
なるほど……。何が言いたいかわかった。
「警察にでも頼め」
「警察に儀式で召還されたものを捕まえろとでも言うの。馬鹿にされるだけよ」
同感だ。とりあえず聞くべこことがある。
「結局、何が召還されたんだ」
北乃先輩はため息をついてから言う。
「この前の球技大会あったでしょ? あの時に仮説が確信に変わったわ」
北乃先輩は一拍置いてから言う。
「召還されたものは『悪意』よ。実体そのものがないただの意思……というか概念? 最近、この辺で事件がよく起こるでしょう? ひったくりに痴漢、傷害事件、恐喝、暴力団とは違ったヤバい組織も現れたのよ」
「だから? あの事件は璃子の後先考えない自業自得とはいえ被害者だ……。協力する義理はないぞ?」
「確かにあなたには拒否権がある。だけどあなたは『悪意』から一条璃子を守れる? 正体不明の相手から守れる? そういう意味で私に協力するのは悪いことじゃないんじゃない?」
私は黙る。
そもそもこの話が事実かどうかもわからない。ただ一つわかるのは璃子が巻き込まれているということだ。
「命の保証は?」
「ない」
なんで私がこんな目に……。普通の女子に命のやりとりさせるなよ。……嫌だな。友達失うのは……。
「いいだろう。乗ってやろう。決してあんたらのためじゃない。私のものを守るために協力する」
「信じられん」
「中山先輩、私が嘘を付いてるとでも?」
中山先輩は肩をすくめた。
「違う。逆さ。俺も一応妹程ではないにしろ嘘を見抜けるからね。お前の本心まではわからんが間違いなく本当だという事が信じられないということだ。こっちから交渉を持ち掛けたとはいえ普通ありえないぞ? 本当のこととはいえこんな電波な話。お前は自分の命を大切にしてはいるが、それ以上に他人の命を大切にし過ぎじゃないか?」
私は中山先輩の言葉を無視する。
こんな交渉に引っ張り出しといて今更何言ってんだ。それにそんな殊勝な考えなんて持ち合わせてない。
「あなたって悪意なんかより余程面倒ね」
北乃先輩が何か言ってるがあえて否定しない。肯定もしないが。
「それで協力するに当たってこちらの要件も聞いてもらうぞ?」
「何?」
「この件に関することはすべて包み隠さず話すことだ。嘘を言ったり、情報を言わなかたっりした場合は即刻協力関係は切る。そっちは知らんがこっちはあんた達のことは信用してないからな。所詮私達の絆は利害の一致だ」
「最初からそのつもりよ」
私は北乃先輩の目を見つめる。嘘はなさそうだ。
私はいつの間にか普段の喋り方になってることに気付き、敬語に戻して言う。
「じゃあ話は終わりですね? 詳しいことは後日聞きます」
私は席から立ち、踵を返してドアへ歩いて行く。
「そうでした。先輩方に言いたい事が……」
私は振り返り言う。
「ただの協力者にあまり深入りしない方がいいですよ。それと私の友達に危害があるようだったらそっちを優先しますので」
私が再び先輩達から背を向けると北乃先輩が私に言葉を投げる。
「『悪意』は何もかも歪ませる。覚えておいてね」
私は言葉だけ聞き、何の反応もせずにオカルト部の部室から出て行った。
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「…………羅刹女ね」
「どうした北乃?」
「羅刹女とは羅刹の女性のこと。羅刹って何か知ってる?」
「悪鬼だっけか?」
「そう。力が強く、足が速く、人を魅す悪鬼。だけど羅刹は後に守護神となる」
「それで?」
「彼女に嘘を吐いては駄目よ?」
「話が繋がってないだろ。後、俺は嘘を吐くのは得意だが嘘吐きじゃない」
「そうね。嘘吐き野郎」
「……ハア。もういいわ。そんなことより高田鏡華……」
「あなたも気づいた?」
「妹と後輩づてに少し聞いた事はあるが、思ってたイメージとは何か違和感だ」
「そうね。あの娘は人によって内面の見え方が違う。まるで万華鏡のように……。私にはあの娘が危なっかしく見えたわ」
「俺にはある意味内向的に見えたな」
「確かにそのようにも見えたわね。……それにしても──」
「何?」
「策士モデル・滝沢月見、天才・伊集院風麿、嘘破り・中山晴恋、転生者・原山大樹……そして大金持ち・一条璃子…………よくこれだけアウトローな方々を集めたわね」
「あの文芸部部長と寺スもいるしな。……てか転生者って何だ?」
「原山大樹の前世が不死鳥なの。転生した今となっては普通の人間だけどね。不死身というわけでも、炎を操るわけでもない普通の人間……」
「もう突っ込まないよ」
「そんなことより大丈夫かしら? 本当にヤバい組織も活発化してるのよね」
「例えば?」
「さあ?」
「…………大丈夫かねぇ」
次回は『人気アイドル・姫路姫都』です。
そして夏休み編に入ります。




