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Student War ──羅刹女──  作者: 天井舞夜
嘘破り少女・中山晴恋
17/86

第16話①

 ただいま二十三連勝中。

 四時間目の授業が終わり、昼休みも半ば。

 さすがに疲れた。

 覚悟していたとはいえ男子の舐めるような視線は晴恋にはきつかった。

 目を伏せている私の前方の視界にスカートが見えた。次の相手は女子らしい。


「五組の滝沢月見っていうんだけど。あなたにゲームを申し込むよ」


 滝沢さんと名乗った女子を見た。スレンダーで高い身長、ホッソリとした足はまるでモデル。そして明るい感じに整った顔立ち。

 この人もしかして──


「モデルの月見?」

「正解」


 月見さんは笑みを私に向けた。

 わ~わ~! この学校にいるのは知ってたけど見るのは初めてだよ。


「私、中山晴恋といいます」

「知ってるよ。今日、一年の間で話題が持ち切りだからね」


 どうしよう。この人に恥はかかせたくないし。


「それじゃあ場所変えようか?」


 月見さんは晴恋に提案して来た。


「大丈夫大丈夫。あなたに不都合はないよ」


 もしかして月見さんはこの教室に晴恋が嘘を見破るトリックでもあると思ってるのかな? 残念だけど場所を変えても変わらない。

 でも月見さんの頼みだし断る理由もない。


「わかりました。場所を変えましょう」

「そう来なくっちゃ!」


 晴恋は立ち上がると月見さんが歩き出す。晴恋も月見さんの隣りで歩く。

 晴恋は月見さんの足を見た。

 足長いな~。


「私はあなたに勝つ気でやるけど……あなたもそのつもりだよね?」

「もちろんです!」


 月見さんはさっきの笑みとは違う不敵な笑みを晴恋に向ける。

 そして廊下に出ると晴恋の先にも視線を向けたような……?


「あなたも何か目的があってあのゲームをしてるんでしょ?」


 確かに目的はある。晴恋は頷いた。


「たぶん私の吐く嘘は他人に見られるとその後の人達も真似するはずだから……」


 どうやら晴恋を気遣っての言葉らしい。その言葉に嘘がないことに晴恋は悪寒がした。




「ここですか?」

「うん」


 晴恋と月見さんは体育館にある女子更衣室に来た。

 ゲームのルールなどの説明はここに来る途中に終えている。

 それはそうとルール説明の時に月見さんはルールに関して誰も質問しなかった質問をした。


『証明さえ出来ればどんな嘘でもいいのかな?』


 基本的に正解は自己申告ではあるが証明してもらえるに越したことはない。その旨を月見さんに答えた。

 普通なら挑戦者は自己申告の方が有利だ。なぜなら自己申告の正解で嘘を言うこともできるから。晴恋はその嘘も見破るけどね。

 月見さんは晴恋と向かい合い言う。


「嘘突きゲームを始める前に交渉したいんだけどいいかな?」


 交渉? 勝たせてほしいとかかな? とりあえず聞いてみよう。


「何ですか?」

「あなたと二人きりになりたかったのはさっきのも理由の一つだけど……この交渉も理由の一つなんだ」


 可愛くて怪しい微笑を浮かべ月見さんは続ける。


「お互い賭けの対象を変えない?」


 賭けの対象を変える? 別にそれ自体はいいかな? 何を賭けたって晴恋が勝つし。


「何と何にですか?」


 月見さんはあるロッカーから紙の束を取り出した。


「これ私の自作小説なんだ。私はこれを賭ける。あなたが負けたら文芸部に入部してほしいの?」

「……いいでしょう」


 晴恋はしばらく考え、承諾の返事をした。月見さんの書いた小説を読みたいという興味があった。

 月見さんはスカートのポケットに手を突っ込み言う。


「それじゃあゲームを始めようか」

「はい。スタート」


 月見さんは可愛い妖艶な笑みで言葉を紡ぐ。


「あなたの答えが終わったすぐ後にサイコロを振ったら私は必ず六の目を出せるよ」


 え? 嘘? 全然わからない。


「終了ね」


 月見さんは嘘の言葉を終了した。

 そういうこと! 晴恋は月見さんの嘘偽りない気遣いの言葉、ルールに関しての質問の意味がやっとわかった。確かにこれが他人に知られたら晴恋は何時か絶対負ける。

 月見さんの言葉は嘘や本当以前の問題。完全にギャンブル。つまり逆転の発想。過去の事柄で嘘を吐くのではなく、未来の事柄で嘘か本当か決めようということだ。ここで先程のルール質問の意図が活きる。あれは晴恋を縛るための質問だった。


「どうしたの? 中山さん」

「さすがにそれは後出しジャンケンでズルいと思いますけど?」

「そうかな? サイコロの目を当てるのに後出しも何もないと思うけど?」


 本当にどうしよう……? 完全に予想外。

 問題は嘘を指摘するところ。もし『答えが終わったらサイコロを振る』という部分を指摘したら、月見さんの後出しジャンケンの限り絶対に勝てない。それでは『六の目を出す』という部分、勝てる可能性があるとすればここ。この部分を指摘すれば月見さんは必ずサイコロを振らなければならない。なぜなら『六の目を出す』という言葉が嘘になるから。嘘かもしれないし、本当かもしれない。完全な後出しと言えない理由は、結果が変わる事があっても、結果を変える事が出来ないから。

 つまり、晴恋が勝つ確率は六分の五ということ。逆に言えば六分の一で負けてしまう。晴恋は自分自身でこの確率の恐さを身を持って知っている。それは月見さんも同じ、だからこそサイコロを使った嘘を言ったんだ。

 とりあえず仕方ないから晴恋は嘘を指摘する。


「六の目を出すところが嘘です」


 月見さんは笑みを崩さず、何も言わないでサイコロをポケットから取り出し床に落とした。

 サイコロが床を跳ねて三六〇度回転する。

 やがてサイコロが止まる。


「残念」


 月見さんの言葉を聞き、出たサイコロの目を見る。

 一の目。晴恋の勝ち。

 晴恋は安堵に襲われ、大きな溜め息を吐き出し床に座り込む。


「ちょっと大丈夫?!」

 月見さんは晴恋が急に座り込んで心配になったみたい。

 月見さんは後ろから晴恋の両肩に手を置いた。


「大丈夫です」

「ごめんね。あなたに勝つ方法がこれしか思いつかなかったの」


 正直、あっぱれと言うべきか

な? ルール違反にはギリギリ入ってない嘘……。証明と不定の結果を利用した巧みな嘘……。今までの挑戦者にはないしっかりとした前準備と練られた攻略法。

 晴恋が立ち上がると月見さんの手が肩から離れ、月見さんも立ち上がる。


「本当にごめんね。中山さん」


 月見さんが手を合わせて謝罪する。


「いやいや、これも立派な戦略ですから」

「そう? じゃあこれ」


 月見さんが紙の束を晴恋に差し出す。


「え? いいんですか?」

「いいのいいの。どうせそれコピーだから」


 月見さんは晴恋に自作小説を渡すと更衣室から出ようとする。


「自分のクラスわかるよね?」

「わかりますよ!」

「だよね。じゃあ私はまだ用事があるから先に行くね」


 晴恋がはいと言うと、月見さんはじゃあねと言い更衣室から出て行った。

 …………はあ。疲れた。

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