第10話
宮永 恋歌 : みやなが れんか
金石 柳太郎 : かねいし りゅうたろう
伊集院 風麿 : いじゅういん かざま
季節は五月も中旬の放課後。
私と月見は部室で本を読みふけっていた。
あの事件の日から三日後、私は無事に文芸部に入部した。
小学生の時は浅くではあるがあらゆるジャンルの小説を網羅していた。しかし、最近はファンタジー一辺倒になってしまった。しかも、魔法使いものを重点としている。
ただ一つの例外を除いて。
月見は本を読むのを止めて机の上に原稿を取り出す。どうやら文芸部らしく小説を書くらしい。
その時、部室のドアが勢い良く開け放たれた。
そこにはロングの黒髪で小柄──ものすごく小柄な女子が突っ立っている。そして今にも泣きそうだ。
私と月見は呆けて件の女子である文芸部の部長──宮永恋歌を見ている。
「月見ちゃ~ん! 鏡華ちゃ~ん!」
部長は泣きながら月見に抱きついた。
「ど、どうしたんですか?! 部長」
月見は慌てながら部長に問い掛ける。部長の頭を撫でながら。
「このままじゃ廃部になっちゃうんです」
唐突だ。
「廃部ってどういうことですか?」
私は部長に近づき、目線の高さを合わせて問い掛ける。
「部員が足りないんです。五月までに部員を五人以上にしないと文芸部を廃部にするって先生が」
私は状況を理解した。
現在、文芸部は部長と私と月見の三人しかいない。
期限は後一週間か。仕方ない。部員集めてくるか。
「わかりました部長。それじゃ私は部員を集めて来ます」
目線を合わせてたのになぜか部長は上目遣いで言う。
「そんな……これは部長の責任ですよ」
「いえ。部長は部室にいてください。上級生より一年生の方が狙い目だし、この時期なら一年生には一年生が勧誘した方が良いと思うんです」
私はそれだけ言うと部室を後にした。
ドアの向こうで部長が、気をつけてね、と言っていた。
学校で何を気をつけるのか。
私は部室棟を出たところで月見が私の後を追って来た。
「待って鏡華。私も手伝うよ」
「そう? 悪いな」
「いやいや、私の問題でもあるからね」
私達は校舎に入り、どうするか悩んだ。
幽霊部員を集めるだけなら簡単だろう。どうせ入部してもらうなら幽霊は遠慮してもらいたいな。
私は入部において規制がないか生徒手帳を調べた。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな……あった」
結論を言うと入部することに関して特に規制はなかった。入部時期や入部理由、入部する部活の数などはほぼフリー、規制といえるのは入部届けを入部者希望者本人が顧問に直接渡さなければいけないということくらいだ。
ただ在籍に関してに規制があった。生徒が部に在籍するにあたり、正式に在籍が許される部は二つまで。三つ目以降は部員ではあるけど正式部員ではないとい感じらしい。
私は月見を見て言う。
「とりあえず幽霊部員になりそうな奴はやめよう」
「そうだね。部員になるからにはしっかり活動してもらいたいしね」
私は少し考えてから言う。
「部活入ってない奴の情報を集めよう」
「どうやって?」
「情報屋だ」
情報屋。学校の生徒、教師の裏事情などの情報を集めている奇特な奴だ。情報はタダではない。金銭などは要求されないが、情報を要求される。つまり、情報交換ということだ。
「私の小学生からの知り合いにそういう奴がいる」
問題は情報料だ。どうするか。それなりの情報が要求されるな。
「月見。あんた、最近体重増えた?」
月見はうんざりした表情を見せると、私の耳元に口を近づけて小声で言った。吐息が耳にかかってくすぐったい。
月見は私の耳から口を離した。小声で言うということは他の人には知られたくないのだろう。
ごめん。月見。
「よし。情報屋のところに行くか」
「ちょっと! 今のこと誰にも言わないよね?」
私は月見の言葉を無視して歩き出した。
****
僕は自分のクラスで友達と話をしていた。取引と言うべきか。
僕は友達に言う。
「ほしい情報がある」
友達の名前は金石柳太郎。スポーツ刈りにしていて見た目は熱血漢みたいな人だ。情報屋をやっている。そのスタイルどちらかというと情報の仲介者に近いかもしれない。
「お前が情報をほしがるなんて初めてだな。何の情報がほしい?」
僕はあの女子のことを考える。
明確な情報が同じ一年生しかない。
「一年生の女子の情報がほしい」
金石君は困りながら言う。
「一年生女子全員の情報がほしいのか?」
「ある一人の女子の情報だけほしいんだけど」
「それはいくらなんでも抽象的というか広範囲というか……他にないのか? 名前とか容姿とか」
そう言われても。その女子の名前を知りたいんだけど。
「えっと……ポニーテールかな?」
金石君はため息をついた。
「あくまで僕の第一印象だけど、生意気そうというか勝ち気な目をしてたよ」
金石君は何か納得したような顔をして自分の鞄から手帳を取り出し、挟まっている写真を一枚抜き取り、僕に見せた。
「コイツだろ」
その写真には三日前に見たあの女子が写っていた。
「そうだよ! この娘だよ!」
金石君はすぐに写真を手帳に戻して言う。
「取引だ。先に俺に情報を教えろ。俺の希望としてはお前自身の情報を渡してくれればいい。お前の情報は需要が高いからな」
金石君曰わく、僕の顔は美形で、癖毛が可愛いと評判らしい。
もしかして需要が高い情報ほど良い情報がもらえるのかな?
「期末テストの問題傾向なんてどう?」
「お前が知りたい女子のページだけ見ていいぞ」
僕の情報はどうやらかなり需要が高い情報らしい。
金石君はその女子のページだけ開いて僕に渡した。
僕は手帳の中身を見る。
女子の名前は高田鏡華。いろいろプロフィールが書いてあるが、目に入ったのが備考欄だ。
僕はその内容に驚く。
「ええー! 彼女が昼一の羅刹女!」
「驚いたか?」
「当たり前だよ」
僕と彼女は出身小学校は違うが、昼山第一小学校の羅刹女といえば直接見たことある他校生は少なかっただろうけど近隣の小学校では名が轟くほどの有名人だった。喧嘩を売ったら返り討ち、近隣の子供を恐怖によって支配していたとか。
「それじゃあさ。たくさんの大人の男を倒した噂は本当なの?」
「噂自体がねじ曲がってるけど嘘じゃないな」
「何が嘘じゃないって?」
突然女子の声が聞こえてそちらを向くと、高田鏡華ともう一人女子が扉の傍に立っていた。
「お前らか」
「客に向かって随分だな」
彼女達は僕達の傍まで歩いて来て、高田鏡華は腕を組んで言う。
「単刀直入に言う。一年生で部活に入ってない奴らの情報がほしい」
金石君は僕を一瞥してから言う。
「それじゃ情報料として答えてくれ。お前の好きな奴を教えろ?」
金石君。それはストレート過ぎだと思うんだ。
「そんなんことでいいのか?」
「ああ」
高田鏡華は傍にいた女子の肩を掴み引き寄せて言う。
「この娘、月見だよ」
月見と呼ばれた女子は嬉しいような引いてるような複雑な表情をしている。
金石君はしまったというような顔。
高田鏡華はまるで僕達に自慢でもしているかのような顔だ。
「聞き方が悪かった。俺が言いたいのは──」
「答えたんだから早く教えろ」
質問の意味を理解したうえで答えたのか、その通りの意味で答えたのかは知らないけど、高田鏡華はちゃんと質問に答えている。
「ちょっと待ってろ」
金石君は鞄からルーズリーフを取り出し、そこに名前を書いていく。
金石君はそれを高田鏡華に渡す。
「ありがと。じゃあね金石。行くよ月見」
「うん」
高田鏡華は用事を済ましたらさっさと教室から出て行った。
僕は話しをするどころかそもそも眼中になかったという感じだった。
「すまんな伊集院。あわよくば聞けると思ったんだが」
金石君の言葉に僕は静かに笑う。
「いやいや気にしないで」
「お前……」
僕は鞄を持って歩き出す。
「ありがとう金石君。それじゃあまた明日」
僕は静かに教室を出て行く。




