永遠論を詐欺訴訟
静かに本を読んでいた彼女が、突然舌打ちした。
「どうした?」
「別に。ただ読んでてイラッときただけ」
活字中毒の彼女は、本ならなんでもいいという雑食主義だ。この前は哲学書を読んでいたかと思えば、次にはファンタジー小説を読み、そして気づいたらミステリー小説を読んでいたりする。活字が読めるならなんでもいいらしい。
活字を読むことに集中する彼女は、内容を気にしない。その彼女が珍しい――と思ったら、当たり前だ。ほら、と見せられた本は、こてこての恋愛物。何事にも例外はあるもので、彼女は恋愛小説だけは読まない。生理的に受け付けないらしい。
「めずらしいな、そんなものを読むなんて」
「友だちにすすめられたんだけど、めっちゃ後悔してる」
胸クソ悪い…とか呟いているが、それが恋愛小説という時点でわかりきっていたことだ。合わないとわかっているのに読むあたり、律儀な彼女らしい。
「だいたいさ、見てよ、これ」
ずい、と目の前に本を突き出される。近すぎてピントが合わない。腰を引いて、指さされた文章、というかセリフを読む。永遠に君を愛するとかいう、よくある言い回しだ。安っぽいセリフだとは思うが、別にそこまで気にすることじゃない。
「これがどうしたんだ?」
「くだらないって思わない? 存在自体が永遠じゃない人間ごときが誓う永遠ってなに?」
そういうことか。ようやく納得する。
ひねくれた感じに哲学的な彼女は、細かいことを気にして深読みすることが多い。いちいち気にしていたら疲れるだろうに。普段本の内容を気にしないのは、彼女なりの防衛本能なのかもしれない。
「永遠ってのはつまり、この発言者が生きる限りってことじゃない。そんなみみっちい永遠なんてクソ食らえでしょ」
さっきから言葉遣いが悪い。親に「女の子なんだから」と言われ続けて育った反動らしい。親に会ったことがないから知らない。他人を傷つけたり不快にさせたりしない限り、俺は言葉遣いなんて気にしないからどうでもいい。
「ただのウソつきじゃない。詐欺よ、詐欺。聞こえのいい言葉で騙そうとしてるんだ」
「まあ、言われてみればそうだな」
詐欺は言いすぎだと思うが、とりあえず同意しておく。
「でしょ。もうやだ、吐き気がしてこれ以上読みたくない」
そういえば、ページがまだ半分くらい残っていた。告白まで話が進んでいるのに、まだそんなに残ってるのか? 俺は読まないからわからないが、それが普通なんだろうか。とか俺が考えていたら、彼女はぽいっと本を投げ捨てた。彼女の名誉のために断っておくが、普段の彼女は本を異常なくらい慎重に取り扱う。相当気に入らなかったようだ。
「――なぁ」
「なに?」
そのままふて寝を始めた彼女に声をかけた。しかめっ面でこっちを見てくる。
「俺はきっと、死ぬまでおまえを愛するよ」
未来なんて不確かで、確実なものなんて何ひとつないけど、今の俺の正直な思いだ。
彼女はきょとんと首をかしげ、数秒後に真っ赤になった。
「バッカじゃないの!?」
その直後、野球選手も真っ青な豪速球が俺の顔にぶち当たる。
ジャンルは一応恋愛にしたけど、いいのかこれ。
まあいいか。
だいぶ前に似たようなこと思ったのを思い出したんで、ネタにしてみました。
そこまでひねくれたことは思わなかった…はず。
タイトルはフィーリングで決めたので細かいことは気にしないでください。
それでは読んでくれてありがとうございました。