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第6話 【未知との遭遇】


 なんで、こんな気持ちになるんだろう?


 自分で自分の気持ちが不可解だった。


 たまたまここに辿り着いた私と、たまたま「朝の港の風景」を取りに来たカメラマンの芝崎さん。


 私たちは数時間前に偶然会ったに過ぎない。


 明日になれば、お互い思い出すこともなく過ごして行けるはず。

 なのに、なんでこんなに別れがたい気持ちになるのか、良く分からない。


「変なの……」


 きっとそう。ここ数日の逃亡生活で人恋しくなっているんだ。


 ちょうど、お金もなくなって途方に暮れていた時だし、お腹も空いていた。


そこへ、ちょっと強引だけど、少年のようなあの『100%ウェルカム!』な笑顔攻撃にあったものだから……。


 そう。


 この気持ちに、特別な意味などあるはずがない――。


 私は、無理矢理自分を納得させて、まだちょっと熱く感じるココアを一口、口に含んだ。


「ブミャウッ!」


 えっ?


 妙にしわがれた鳴き声が足下から聞こえて、視線を落としたその時、何かが膝の上に『ポン』と飛び乗った。


 私は固まった。


 ついでに、ココアを持つ右手の筋肉も固まって、力加減の利かなくなった指の隙間から、紙コップがスローモーションで落ちて行く。


 一口しか飲んでないココアは無惨にも、グレーのタイル敷きのテラスの床に、茶色いマーブル模様を描いた。


 な、な、何? 何で、私の膝の上? これ何?


 その、30センチ位の白い毛むくじゃらの小動物は、何だかゴロゴロと、どこからか音を発していた。私の方にお尻を向けて座っているので、顔が見えない。


 ただ、茶色いふさふさのシッポが左右にゆっくり振られていた。


 犬? 猫? 狸? それとも他の動物なの?


 どれにしても、本物を見たことがないから、判断が付かない。私は固まったまま、ぴくりとも動けなくなってしまった。


 ゴロゴロゴロ。


 絶え間なく響くその音は、何となく気持ち良さそうに聞こえたけど、どうかしたら怒って噛み付かれそうな気がして、やっぱり動くことが出来ない。


 動物は嫌いじゃない。


 むしろ好きな方だし、小さい頃はペットが飼いたくて仕方がなかった。


 ただ、動物を飼える環境になかったから、動物は、図鑑やテレビのブラウン管の中だけの存在だった。


 頭では、そんなに危険は無いと理解していても、身体が言うことを聞かない。


 お願い。誰か、助けて! 


 私は、心の中で悲鳴を上げた。


「藍ちゃん、どうしたの?」


 のんびりした救世主の声が背後から聞こえて、私は動けないまま情けない声を上げた。


「し、芝崎さん! こ、これ、どかして下さいっ!」


「あれ? 珍しいな。ヒマラヤンのノラ公か?」


 ヒマラ? ノラ公?


 芝崎さんは、恐れるふうでもなく、ひょいと私の膝の上の小動物を抱き上げて、「お前、良く肥えてるなー」と嬉しそうに頭を撫でている。


「もしかして、猫、苦手だったりする?」


 ああ。猫。猫なんだ――。


 思わず、はーっと安堵の溜息が漏れた。


「苦手じゃないですけど、触ったことがないんです……だから」


「怖いんだ?」


「はい……」


「お前、怖いんだってよ。まあ、ふてぶてしい顔はしてるけどな」


 ほら。と、地面に放された猫は「ブミャウッ!」と一鳴きして、再び私の膝の上に飛び乗ってきた。


 今度は私の方を向いて、やっぱりゴロゴロいっている。


「どうやら、気に入られちゃったみたいだね。嫌じゃなかったら頭を撫でてごらん。喜ぶよ」


 喜ぶ?


 私は、恐る恐る猫の頭をそっと撫でてみた。すると途端に、ゴロゴロが倍の音量になった。


 わ。何これ? 面白いかも。


「あ、あと、あごの下も撫で撫でポイントだから」


 言われるままに今度は、あごの下をこちょこちょ撫でてみると、猫は撫でやすいようにクイッと喉を上げて、気持ちよさそうに目を細めた。


 その顔は、何だか笑っているように見えて、思わずクスリと笑いが漏れた。




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