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第4話 【出物腫れ物】


 気まずい沈黙が二人の間に流れて、店内の静かなBGMがやけに大きく耳に響く。


 私は、膝の上でぎゅっと握った自分の手の甲に視線を落としながら、「やっぱり、公園で断ってしまえば良かった」と、後悔し始めていた。


 そもそも、誰かと話をするのは得意じゃないし、考えてみれば、柏木かしわぎ先生以外の男の人とこんなふうに一対一で話をするのは初めてだった。


『やっぱり、今からでも断ろう』そう決心して顔を上げ、口を開こうとした正にその時


『ぎゅるるるっ!』


 隠しようのないボリュームの、実にひょうきんな音が、ファミレスの店内に鳴り響いた。


「!?」


 芝崎さんの目が驚いたように見開かれ、すぐに愉快そうに細められる。

 ついには、耐えきれないように目を伏せて笑い始めた。

 声に出して笑っている訳じゃない。


 でも、肩が小刻みに震えているから、絶対笑ってる!


「ごっ、ごめんなさいっ!」


 キャー! キャー! キャー!


 なんで!? 


 なんでよりによって、こんな気まずい雰囲気の時に、鳴ったりするのこのお腹はっ!


「ごめんよ……。もしかして、今まで元気がなかったのって、腹、空いてたせい?」


 その質問も、笑いを含んでいる。


「すみませんっ。私、昨夜から何も食べてなくて!」


 恥ずかしさで顔が上げられずに、しどろもどろになりながら何とか声を絞り出す。


「俺もちょうど腹ぺこだったんだ。何か食べようか」


「あの、でも私、お金が……」


「ああ。心配しないで、俺のおごり。しがない売れないカメラマンだから、モデル代はそんなに弾めないけどね」 


 ――ほかほかご飯に、お豆腐とワカメのおみそ汁。焼いた鮭に大根おろし。甘い卵焼き。お付け物。

 頼んだ和風朝食セットは、空腹なことを割り引いても、涙が出そうなくらい美味しかった。


 ここの所、まともな食事をしていなかったのもあるけど、多分、それだけじゃない。

 一人じゃない事が最上のソースになったのだと思う。



 私の食べる様子を見る芝崎さんの優しい眼差しは、柏木先生を思い起こさせて、胸の奥がチクリと痛んだ。



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