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第26話 【真実】

「えっ? 先生、今何て……?」


 私は、思わず驚きの声を上げた。


 深夜のメディカル・ルーム。

 シンと静まりかえった室内には、医療機器の発する小さな機動音だけが、微かに響いている。

 エアーコンデイョンされた室内は、熱くも寒くもないはずだった。

 なのに、先生の言葉を聞いたとたん、私の背筋には確かに言いようのない悪寒が走った。


あい。お前は、彼女、日掛藍ひかけあいの臓器移植の為に造られたクローン体だと、そう言ったんだ」


 私を真っ直ぐに見詰め、もう一度さっきと同じ説明をする先生の目は、嘘を言ってはいない。そんなことは分かっている。

 でも、言っていることの余りの突飛さに、脳細胞が付いて行かない。


 臓器移植。


 クローン。


 それぞれの単語の意味は分かる。

 クローン羊が成功したと言うニュースも見たことがある。

 でも、自分がお姉ちゃん『日掛藍』のクローン体で、それも『臓器移植の為に造られた人間』だと言うことがどうしても信じられない。


 先生は、ベットの横に椅子を一つ持ってくると私に座るように促して、自分は椅子に座った私の目線に合わせるように屈み込んだ。

 一瞬だけ、迷いを打ち消すかのようにギュっと目を瞑ったけど、再び開けたその目に迷いの影は見えなかった。


「十八年前、当時の日掛グループ社長の日掛源一郎ひかけげんいちろうの一人息子、裕一郎ゆういちろうの妻が妊娠した時、その胎児に先天性の内臓疾患が見つかった――。

 その子供は長い不妊治療の末やっと授かった子供で、もしその子が無事に生まれなければ、今後子を望むことは難しかった。


 日掛源一郎はその人脈と財力を使い、世界最高水準の医療施設を作り上げた。それが、ここ、日掛生物研究所だ――。


 表向きは、日掛のバイオ部門の一研究施設だが、実際は ”日掛藍”一人の為につくられた医療施設だ。そこで、十八年前に行われたのが、臓器移植を目的としたその胎児のクローニングなのだ。

 それは、他人の臓器を移植するより、安全で確実だからだ……。


 ”大沼藍”は、この世界の何処にも存在していない人間だ。だから、もちろん戸籍もない――」


 衝撃。そう正に衝撃を受けた。

 心臓がこれでもかと言うように早鐘を打つ。私は息をするのも忘れて椅子に座ったまま金縛りにあったように固まった。


「そんなの、うそ……でしょう?」


 やっとのことで絞り出した声が、どうしようもなく震える。背筋はゾクゾクと冷たいのに、ギュっと握り込んだ手のひらだけが妙に汗ばんだ。


 私は先生から視線を外し、お姉ちゃんに助けを求めてその瞳を覗き込んだ。私の視線を真っ直ぐと見返すお姉ちゃんの瞳には、何か揺るぎない信念のようなものが伺えた。


 これは嘘でも、冗談でもない。


 そう私の本能が告げていた。

 この話が真実ならば、私の今まで感じていた疑問の答えは、全て導き出される。 


 なぜ、私はこの『日掛生物研究所』で生活しているのか。

 なぜ、私には『お祖父様』は会いに来てくれないのか。

 なぜ、私とお姉ちゃんはそっくりなのか。

 なぜ、研究所の所員は『実験動物』を見るような冷たい目で私を見るのか。


 それは、私が『実験動物』に他ならなかったからだ。


「藍、信じられないかもしれないけど、理解して。時間がないの」 


「時間……?」


「そう。こんな真夜中にわざわざあなたを呼びだしてこの話をしたのは、時間がないからなの。……昨夜お祖父様から連絡があって、臓器移植手術を急ぐように連絡があったの」


「えっ?」


「あなたから臓器を取り出すように、指示がでたのよ」 


 お姉ちゃんのその声が どこか遠くに感じた。


 



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