表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/41

第10話 【溜息の理由】


「じゃあ、俺はこっちの板の間の方に寝るから、君はこのベッドを使って。一応、シーツは換えといたから」


 一番奥の和室を、板の間から移して来たファンヒーターで暖めてくれた芝崎さんは、自分は薄い毛布一枚を押入から取り出すと、そう言った。


「え? じゃあ、芝崎さんはどこで寝るんですか?」


「俺は、コタツで寝るから大丈夫。普段でも良くやるんだ。遠慮しないでベット、使って」


 はい?


 コタツで寝るって……。あの小さいコタツじゃ完璧に芝崎さんの身体、収まらないんじゃ?


 その上、薄い毛布一枚。


「んじゃ。お休み」


 ちょっ、ちょっとそれはいくら何でも、風邪を引いちゃう!


 私は、板の間に行こうとする芝崎さんの腕を慌てて掴んだ。


「こちらの部屋で、一緒に寝ましょう! その方が、暖かいです!」


「は?」


 なぜか、芝崎さんの動きがピタリと止まる。


 私の顔をまじまじと見下ろすその表情も、身体と同じで驚いように『ピキッ』と固まっている。


 あれ?


 私、何か変なこと言ったのかな。

 

「……それは、いくら何でも、マズイでしょう? 一応これでも、男だからね」


 ははははっ、と引きつり笑いをしながら行こうとするその腕を、必死で掴んだ。


「でも、風邪を引かれては私が嫌です。困ります、ここに居て下さい。私、気にしませんから!」


 芝崎さんは、何かに救いを求めるように、天井を仰ぎ見た。


「でなければ、私がそちらで寝ます!」


 恩人に、風邪を引かせてしまっては、居候として立つ瀬がない。


 それに、『風邪は万病の元』だから甘く見てはいけないと、良く柏木先生が言っていた。


 しばしの沈黙が、ファンヒーターの熱で暖まり始めた和室に流れる。


『ふう』と一つ溜息をつくと、「……分かった。そうするよ」と妙に気抜けしたような返事が返って来た。





 セミダブルのベットに、二人はちょっと狭かったけど、板の間の小さなコタツで寝るよりは、断然ましなはず。


 これで、心おきなく眠れる。


「お休みなさい」


 私は、隣で背を向けて横になっている芝崎さんにそう声を掛けて、目を閉じた。


「……ああ。お休み」


 しばらくぶりで足を伸ばして眠れる開放感と、芝崎さんの背中から伝わる温もりを感じながら、引き込まれるようにすうっと眠りに落ちて行く。




 そのまどろむような意識の下、どこかで『はぁー……』と言う長い溜息を聞いたような気がしたけど、気のせいかもしれない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ