十九話『白雪』
スナイパー。アーチャーからクラスチェンジで成ることができるジョブで、弓のエキスパート。
打たれ弱い反面、火力(ダメージ量)は高い。パーティでの殲滅効率を上げるのに頼りなる存在。
初心者向けの攻略サイトにそう書いてあった通り、白雪の攻撃力は素晴らしく、オークナイトを狩る速度は飛躍的に向上した。
俺の操るカナメはというと、ターゲットを引き付けながら、白雪の十分の一程度にしかならない攻撃をちまちまと加えている。
パラディンはHPと防御に優れるがその反面、攻撃力は戦闘職の中では低い方だ。成長すれば改善されるスキルを覚えるらしいが、このオークナイトは獣人系らしいから仮に覚えていたとしても意味は成さない。
悲しいかな、伊織の言うとおり俺は白雪より役に立っているとは言えないだろう。
『夏休みにはもう入ったの?』
カップラーメンが食べ頃になるくらいの、一人の時とは比べものにならない早い時間で、白雪が加入してから三匹目のオークナイトを倒して次の湧きを待つまでのインターバルと言うべき時間。白雪がそんな話を振ってくる。
『今日がちょうど終業式だったよ』
俺は正直かつ無難に返答する。爆笑必至の返しも浮かんだが、初対面の相手に対してはまだ気恥ずかしさがあるし。
『あ、ワタシのトコも今日がそう。奇遇だね』
奇遇もなにも、全国津々浦々の高校の夏休み突入日は似たり寄ったりだと思う。終了日は地方によるらしいが。ちなみにこっちは八月末まである。
『何か予定とかあるの?』
と、白雪は質問を重ねてくる。
これには答えるのに困り、指の動きが止まる。というか、脳内予定表には一切の書き込みがなく答えようがない。
会話を見ているであろう伊織に期待しても無駄だろうな。ゲームに関する話を少々交わしたっきりで、雑談には未だノータッチだ。
『白雪さんはどうなんだ?』
ありません、と寂しいことを堂々と答えるのは恥ずかしく、あります、と嘘ぶる度胸もないし、答えを添えずにそのまま返球。
『白雪でいいよ。それと、質問に質問で返すのは感心せんな――なんて』
『……ああ、悪かった』
『あ、えっと』
白雪の言う通りそういう返しを快く思わない人もいるだろうし謝ったが、なんだこの画面越しにでも伝わる微妙な空気は。俺は何を誤ったんだ? 謝り方か? なんちゃって。……さて。どうしたものか。
『カナメにはこのネタは分からないと思う。他のゲームしないみたいだから』
会話には傍観の姿勢を貫いていた伊織が唐突に絡んできた。そして先ほどの言葉がなんらかのゲームの台詞ではないかと分かった。
『そうなんだ、ごめんなさい』
なるほど、俺に素で返答されて困惑していたってことか。
『いや、俺も知らなかったから。悪い』
『ううん、知らない方が普通だよね。ワタシ、ゲームしてる友達いないから、ついテンションが上がっちゃって、分かってくれるかなーって思っちゃったりして……』
しょぼんと肩を落とす動作をしてる白雪には申し訳ないが、少しだけ俺はムッとした。
ゲームしない友達はいるってことだろ、と。俺の携帯のアドレス帳を見せてやりたい気分だ。想像するに現実の白雪は友達が多そうだし。気さくっぷりがチャットからも分かる。
『そだ。知っているってことは、ネピアはあのゲームやったことあるんだよね?』
お、これは伊織と話が合う知り合いが出来るチャンスじゃないか? しかも同姓だし。
『…………まあ、一応』
素っ気なさ全開の伊織の返答に俺はキーボードに頭を打った。関わり合いになる気ゼロかよ。
『あ、ごめんね。あまり興味なかったかな』
文面からそんな雰囲気を察したらしく、白雪は申し訳なさげに言った。わざわざ三点リーダを打って返されれば誰だって分かるか。
微妙になりかけた雰囲気は数秒後に湧いて出たオークナイトにより、逸らすことができた。ありがとうオークナイト。
そして、さようならオークナイト。
倒されて消えゆくモンスターの姿を後目に、俺はクエストウィンドウを開く。後五体か。伊織の方も同じだろう。
『白雪は後何体倒せばクリアなんだ?』
気になったのと、湧くまで間を保つために訊ねる。
数秒置いて白雪は、
『八体ね。一人だとキツかったから、助かってる』
ここまで一体も狩ってこなかったてことか。
『じゃあ、あと八体倒すまで付き合うよ』
『いいの?』
『こっちは、あと五体だし。三体くらいは』
『ありがとう』
寧ろ、礼を言いたいのは俺の方だ。俺一人だけじゃ、五体を倒すのに苦労していたのは確実だ。夕飯がカップめんになっていたかもしれない。
勝手な判断ではあるが、伊織も同じように思っているとこれまた勝手に考えてる。
終わったら待たずに一人帰るような自己中心的な性格ではないのは、ここまでのクエストで証明済みだ。ま、辛辣な言葉を浴びせてきたりして急かされたりはしたが。
『白雪もまだこのクエストやってなかったんだな』
白雪のレベルはカナメと同程度。伊織の説明だと、このストーリークエストはパーティを編成して行けば、この半分くらいのレベルでクリアできるらしく、割合的にもそっちの方が多いそうだ。
こうして来てみると言うとおりだと思った。オークナイトの体力はサイボーグ並に高いが、攻撃力自体はレベルが低くとも耐えれそうだし、パーティに回復役が居れば問題ない強さだ。
周りに湧くオークにしても、ネピアがせっせと、機敏なフットワークで一撃の元に焼いてるのを見て分かるとおり強くはない。
何よりは得られる経験値の高さが俺たちレベルに見合わない。クエストをクリアするという目的を外すと、一番得してるのは伊織かもしれない。
『纏まった時間が取れなくて……』
白雪は苦笑しながら言った。俺も何か表情か動作を瞬時に出せるようにショートカットキーに設定しとくべきか。
『部活でもやってるのか?』
ちなみに俺は部活には属していない。生来の運動音痴で無趣味人間だったしな。家庭の役割的にも部活は選択肢にはなかったが。
『ううん。五月から六月はオフゲーも並行してプレイしてたから。あ、最近は生徒会の方が急がしかったりしたのもあるかな』
オフゲーはオフラインゲームの略で、いわゆるネットに繋がないでプレイするゲームのことだったっけか。伊織の持っている携帯ゲーム機でできるようなゲームのことだな。ここ数ヶ月で以前には無縁だった知識が積み重なってきたな。悪いことじゃないが。
それよりも、気になる単語が。
『白雪は生徒会に入ってるのか。凄いな』
俺は素直に感心の言葉を述べると、白雪は謙遜するように手を振り、
『そ、そんなことないよ。生徒会長になれたのだって運がよかっただけだと思うし』
『生徒会長!?』
『あ、うん。ワタシの通ってる高校は二年が務めることになってるから』
俺が放った驚愕の言葉の意を誤って捉えて、さらりと白雪は言った。
何だろうか。物理的にも画面の向こうは別世界であるのだが、現実の白雪が俺とは違う世界の立場の人間だと感じた。
それと同時に妙な親近感もあった。生徒会長を務めるほど、人望があり成績優秀(イメージ的に)な人がMMORPGをプレイしているのは意外だったからだ。
現実だったら、友人でもない限り、地味な生徒と生徒会長がこうして会話を交わす事なんて珍しいだろうし。これもオンラインゲームの魅力なのかもしれない。
『だから、夏休みに入るまでこのクエストをしてなかったのか』
だが、このまま生徒会長としての話を広げると伊織の不機嫌度数がアップし、それに伴い罵詈雑言の量も増しそうだったから、俺は話題の方向を変えようとした。俺も格差を感じたくはなかったし。
『うん。それもあるんだけど、今キャンペーン中みたいだから』
『なるほど。俺たちと同じだな』
今はストーリークエストをクリアすると得られる経験値が二倍。さらにはアイテムまで貰えるというお得なキャンペーン中だ。
ストーリークエストは一般クエストより入手経験値も高いため、倍というのは結構大きく、ここまで三つクリアしてカナメは2レベルアップした。ちなみにアイテムは回復アイテムの詰め合わせやらで、キャンペーン限定というわけではないらしい。
それでも既にクリアした人にとっては些か理不尽な気がするが、こういう初めてから日が浅い新規プレイヤー向けの特典は多いとのことだ。伊織情報によると。
『そうなんだ。ワタシ今日全然このこと知らなくて、家に帰ってすぐに公式HPで調べたら聞いたとおりで、今すぐやるっきゃない! って思ったわけ』
この発言だけで高揚感が伝わってくる。キャンペーンはまだまだ続くみたいだから、急ぐ必要はないと思うが。
『……で、クエスト受けてここに来てから一人じゃ難しいことに気付いて(苦笑)』
これは分かり易いな。はたして画面の向こうの白雪が本当に苦笑してるかは分からんが。……と白雪の姿を想像していると、近くでオークナイトが湧いた。
『ところで』
六体目のオークナイトを倒したところで、俺はさっきの会話で気になったことを尋ねようとそう切り出した。
戦闘中もおかまいなく会話してくる(八割は罵声)伊織とやり取りをしているうちに自然と鍛えられたのか、俺は戦闘中でも集中を切らさずに会話をこなすことはできるようにはなったが、ここまで白雪は戦闘中は黙っていたため、倒し終わってからにしようと待っていた。
『さっき、キャンペーンのことを聞いたって言ってたが、その前にゲームの話できる友達いないって言ってなかったか?』
家事以外には細かいことを気にする性格ではないのだが、発言は会話ログに残っていて、それが戦闘中チラチラと目に入るため引っかかっていた。
『あ、そのこと。たまたま聞いたの。盗み聞きってわけじゃなからね』
白雪は誤解のないように前置きして続ける。
『えっと、終業式とHRの後、生徒会室に持ってくファイルを集めてからだから、十一半時過ぎだったかな』
俺は小学時代からそういった重要なポストとは無縁だったから詳しくはないが、なんか大変そうだな。
『生徒会室に向かう途中で、オンラインゲームっぽい話をしているのを聞いたのよ。思わず立ち止まって少し聞いてたわけ。あっちはまだ気付いてなかったみたいだけど』
それは盗み聞きじゃ……隠れはいないようだから立ち聞きか。
『まだ?』
『そのキャンペーンの話になって、もしかしたCFのことかもと考えてたら、抱えてたファイル落としちゃって……』
CFとはこのゲーム“CROSS・FANTASIA”の略称だ。
『ああ、その音で気付かれたと』
情景が容易に想像できた。今日似たような光景を見たのもあるか。
『それで拾ってもらったと』
先を想像して何となく俺は言うと、
『そうそう。凄く恥ずかしかった……。そして帰った後調べたら……ってわけ』
偶然耳に入ってきた会話から知るなんて珍しい気がするな。それもプレイ中のオンラインゲームだなんて。
『わざわざ帰宅しなくても、その人に確認すればよかったんじゃないか?』
俺が言うと少し間があって白雪は、
『思ったりしたけど、あの時はドジっちゃって恥ずかしかったし。……イメージもあるしね』
『イメージ?』
『ネットゲームやってるって、いいイメージ持たれないだろうから。言い難くてね……生徒会長ってのもあるし』
確かに、ネットゲームに限らずインドア系の趣味には、今は少ないだろうがやや不健全なイメージが付きまとう。
特にネトゲは画面の前で何時間もプレイすることもあるし、健康にはよくはなさそうだ。伊織見てると特にその印象が一層強まる。
『あ、その、気を悪くしたらごめんね。ネットゲームが悪いとかそういうことはなくて、ワタシはネトゲ大好きだし』
慌てた様子で白雪は付け加えた。
『まあ、理解はできる。何となくだが』
俺はそう返した。生徒会長っていうのだから、品行方正で爽やかで人気を集める要素があるのだろうし、ネットゲームを趣味としているというのはマイナスのイメージになりそうだ。俺はそうは思わないが、一般的な視点からして、だ。
実際、今日会った生徒会長に『実はネトゲにハマってる』とか言われたら、俺も意外だとは思うだろうし。
イメージを崩さないために、表立って言い難いというのは頷けた。
『けど、今度会ったら話しかけて見てもいいんじゃないか? 口が堅いかもしれないし』
俺が勧めると、
『うん。そうしてみようかな……とは思うけど、顔とかよく覚えてなくて……』
その場をすぐに立ち去りたい気持ちだったみたいだし、覚えてないのは仕方ないか。
『特徴とかは?』
白雪は十秒ほど無言の間を置いた後、
『男子の方はあまり……。女子の方は背が少し小さくて、髪が凄く長かったのは覚えているわ。俯き加減だったから顔はよく見えなかったけど』
……俺は、他人に顔と名前を覚えられるまで時間が掛かる。去年、担任に指されて『あー』と悩まれた挙げ句、隣席の奴を指されたのは悲しい想い出だ。
ちなみに、どうでもいい情報かもしれないが、伊織の背は百五十センチほどだ。
『その特徴なら、探せるんじゃないか?』
『そうかも。だけど、夏休み明けまで待たないと。……登校日は来ない生徒の方が多いし』
ちなみに、俺の通っている高校も夏休み中に夏休み中に登校日を設けている。八月に入って数日後だったか。
『……夏休み明けて、イメチェンしてたりしたら分かんなくなっちゃいそうで不安だけど(苦笑)』
思春期の夏休みには不思議な魔力があるらしく、一ヶ月にガラリと印象を変わったクラスメイトも去年何人かいたな。髪を染めてたり、メガネがコンタクトになったりしてた程度ではあったが。
伊織は……変わらなそうだな。
『ところで、白雪って名前には由来とかあるのか?』
『なんか急だね』
『少し気になったから。答えにくいならいいが』
『全然構わないけど、大したことない理由だよ。名前から取っただけだから。ね、普通でしょ?』
それから一時間半ほどが経ち、
『ありがとう。ごめんね、最後まで付き合わせちゃって』
十匹目のオークナイトを討伐し、クエストを完了して森を出ると、白雪は頭を下げてそう言った。
『いや、白雪のおかげでかなり早く狩れたし。助かったよ。ありがとう』
爽やかに(見えてたらいいが)俺は返した。白雪が加わらなかったら、この時間が経っても終わらなかったかもしれないし。
『二人とも、これから報告に行くんでしょ?』
弓を背中に仕舞い終えてから、白雪はそう訪ねてきた。
『まあ、そうだな』
俺は肯定して、伊織は無言。
白雪が加わってから、終始伊織は必要最低限な反応しかしていない。
画面の向こうで寝てるとか、微睡んでるわけではないだろう。オークを狩っていた動きはベテランの遊撃手のように無駄がなかったし、今もしっかりと傍に着いてきている。
『よかったら、次のクエストもいっしょにやらない? 凄い楽しかったし』
今までプレイしてきて、このように好意的に誘いを受けたことは始めてだから嬉しくはある。
俺は振り向いて時計を確認してから、
『すまん。これから行くところがあってな』
次のクエストまでやると、タイムセールに間に合わなくなる。ま、白雪が来なければそうなっていただろうから、このことにも感謝したい。
『別のクエストでもするの?』
『いや、現実の方だ』
『あ、そうなんだ。勘違いしちゃってた』
俺も言葉足らずだったかもしれないが、ゲーム内の用事だと勘違いするとは、白雪も結構このゲームにのめり込んでるな。
『ネピアさんは?』
少し間があって白雪は訪ねる。
伊織のキャラに対して“さん”付けな辺り、距離を感じてるのが窺い知れる。素っ気なかったからな。
『私も右に同じ』
『そうなんだ』
画面上と文からは分からないが、ガッカリしてるのかもしれない白雪は少ししてから続けて、
『あ、フレンド登録いいかな?』
『もちろん』
俺はすぐさま返す。ゲーム内で伊織以外とこんなに会話した人はいなかったし、楽しくもあったし。断る理由はない。
そして白雪からフレンドの誘いを受けて承諾する。
『ありがとう。インしてたら誘ったりしてもいい?』
『ああ』
『二人とも、今日はありがとう。じゃ、またね』
白雪は手を振りながら、白い光に包まれて光の粒子となり消えていった。帰還のスフィアを使ったのだろう。
課金アイテムの一つで、登録した場所に瞬時に移動できるらしい。便利なアイテムだ。
それがない俺たちはホームポイント(街)に移動できる、帰還魔法陣まで走るしかないわけだが、その前に、
『伊織は登録したのか?』
『一応は』
てっきり断るかと思ってたが、白雪にそれらしい反応がなかったから聞いてみたら、やっぱり応じていたのか。
『意外か?』
心を読んだかのように伊織は言う。
『まあ、あまり好まないタイプだと思ったし』
『嫌いだ』
はっきり言うな……。
『断るのも面倒くさいから受けただけ。嫌になったらブラックリストにもしやすいし』
『……酷いな』
キャラを指定してブラックリストに登録すると交流を経つことができる。囁きチャットを拒否したりできるらしい。
『ネトゲでまで嫌な人と関わる必要はない』
『まるで現実だと関わってるような言い方だな』
茶化すように俺が言うと、
『いないけど』
あっさりと返された。
帰還魔法陣までマラソンしている途中、俺は伊織に気に掛かっていたことを訪ねた。
『もしかして白雪って、今日学校で会った生徒会長なんじゃないか?』
『今更だけど、かなめはバカだな。全国に生徒会長が何人いると思っている。それとも笑い話か? 特別に笑ってやる。アハハ』
俺だって生徒会長ってだけでそんな疑いは持たない。
『ほら、名前が白雪だったし。本名から名付けたって言ってたろ』
『それが何?』
そう聞いてくる伊織。その場に居合わせていた聞いていたはずだが、本気で忘れているのかもしれない。興味なさそうだったし。
『生徒会長の名前は白羽小雪って坂本が教えてくれただろ。縮めたら白雪になるし』
『別に、白雪から連想できる名前なら幾らでもあるでしょ。雪乃、由紀、白川、白石とか』
まあ、伊織の言うことにも一理はある。現に白雪は名前から取っただけとしたか言ってない。名前に『白』か『雪』が含まれていただけかもしれないし。『由紀』を雪に変換してもありうる。
『じゃあ、白雪が話したエピソードはどうだ? 俺たちが今日あったことと似てただろ』
『別に私達だけがあったとは限らないし。偶然の一致かもしれない』
何故、伊織は頑なに否定するんだ。まるで推理物の犯人だな。
『背が少し低くて、髪が凄く長いって特徴も伊織と一致するが』
以上の情報を統合すると、限りなく、白雪が白羽小雪かもしれないという可能性が高いと思う。
白雪に関連する名前の生徒会長が、ネトゲの話をしてる生徒と会って、片方が凄く髪の長い女子という状況が、同時間帯で俺たち以外にあったら教えて欲しい。
伊織はしばし沈黙した後、
『このゲームには日本中のプレイヤーが集まる。そこまで世間は狭くないと思う』
なおも食い下がる伊織に、
『訊いてみる価値はあるんじゃないか?』
『訊いてどうするの?』
『いっしょにプレイするとか』
『私は嫌いなタイプだと言った。もし、その、白雪が近くにいたとしてもあまりプレイはしたくないな』
『もしそうだったら、実際に会ってネトゲ話できる相手になれるかもしれないだろ。伊織はしたくないのか?』
伊織はまた沈黙し、
『リア充は苦手。かなめの好きにすればいい』
吐き捨てるように伊織は言い、魔法陣に着くやいなやさっさと帰還していった。
そう言うならそうさせてもらうか。
確か登校日は――と思い返しながら次いで帰還したのだった。