第十三話『目標、決まりました』
見上げるほどの大きさをした白銀の甲冑が、振りかぶった鉄塊のような鈍色の幅広刃を持つ剣を勢いよく垂直に振り下ろしカナメを切り裂いた。
カナメは「グアァ」と激痛に呻いて仰け反る。
今更だがボイス選択を誤ったかなと、緊張感が張り詰めた戦闘の場ではそぐわないことを思いながら、回復アイテムを使用する。カナメのHPが全快。
キャラクター作成時に掛け声などのボイスを選択できるのだが、少しサンプルを聴いただけであまり深く悩まずに決めたせいか、思ったよりも声が野太い。渋いオヤジといった類の声だ。
見た目は青年であるカナメが「ウオリャ」と発するのはギャップが大きい。
俺が初期選択の失敗を後悔していると、
『カナメ、タゲ外れてる。変な妄想してないで集中しろ』
ネピアの言葉で、巨大甲冑が俺に背中を向けてるのに気付き、慌てて剣士のスキル【挑発】を使用した。否定は後だ。
カナメは両手を広げて無防備であることをアピールすると、ナメられて腹を立てたかは分からないが、動く甲冑はこちらを向いて重い足取りで近づいてくる。
中身のない白銀の甲冑は、本来手が出ている部分に剣を浮かし、本来頭があるはずの部分には青白い炎が揺らめいてる。
首無し騎士【デュラハン】。こいつが現在俺たちが戦っている相手だ。
再び俺を攻撃するデュラハンの攻撃を受けては回復する作業に集中。スキがあればカナメも攻撃に参加して少しでもHPを減らす。今も思い切り振り下ろした剣が神殿の石床に突き刺さり、引っこ抜くスキが出来た。
言い忘れていたが今俺たちがいる場所は廃墟と化した神殿だ。朽ち果てて所々崩れた壁や床がそれを物語っている。
『カナメ、最近夜も暑くなってきてるな』
……
『ああ』
俺は短く返した。
『こっちはボロアパートだから、暑くて困る。夏は暑く、冬はすきま風で寒い。最悪』
…………
『ああ』
俺は“A”を二回押して返した。
『扇風機は点けてるけど、それでも暑い。パソコンの熱もあるし』
………………
『ああ』
『カナメの部屋はどう? エアコンがあったりするの?』
……………………
俺は再び剣を突き刺したデュラハンのスキを狙って、キーボードを打つ。馴れとは恐ろしいもので、ゲームを始める前と後ではタイピングの早さは、ビフォーアフターの動画を撮っておきたかったくらいに違う。
『んな質問返せる状況か! 急に世間話を初めてどういうつもりだよ! こっちは敵を引き付けて、回復をするのに必死なんだから勘弁してくれ。ああ、今エアコンで快適だ!』
俺は怒気を込めたつもりでチャットを返した。そしてすぐにコントローラーを持ち直して回復アイテムを使用する。危なかった。一回で半分近くHPを減らされるから回復を怠るとカナメは地に伏すことになる。
『返せてるけど。単調でカナメがあくびでもしてると思ったから、会話を振ってあげたのに。私の気遣いに感謝されるのは分かるが、キレられるのは心外。エアコンとは……羨ましい。壊れろ』
それはいらぬ気遣いというものだ。あと妙な呪いを掛けないでくれ。
今の状況は、少しでも気を抜いたらカナメが倒される手に汗握る緊迫した戦いの最中だ。トイレも我慢している。
そもそも、伊織もあまり雑談をする余裕はないと思うのだが。
その伊織の使用キャラクターであるネピアはというと、先ほどから杖を掲げて野球ボール大の火球を次々と生み出しては、デュラハンの背中へと放つのを繰り返している。
突っ立って黙々と火球を繰り出す様は一見すると、単純でボタン連打で済むのではないかと思われていそうだが、実際はそうではないとは伊織談。
この魔法は二重の魔法陣を空中に浮かび上がらせてから発動させる中級魔法で、発動するには少し時間が掛かるのだが、詠唱中に特定のコマンドを入力することでその時間を短縮できるという。
コマンドは早く、正確に入力することでより早く発動可能で、伊織は最短時間で発動している。それは対人戦では必須のテクニックだというが、教えて貰ったコマンドを見た限りでは、覚えるのも困難な長さで、素早く入力しようものなら指でも吊りそうな複雑さだった。
試しに短縮コマンド無しで魔法を使ってもらうと、二倍近い差があった。
ネピアは最速で魔法をずっと打ち続けている。デュラハンの体躯が邪魔して画面には映らないが、ボウボウと火球が命中する音が、時計の秒針のように狂うことなく一定のリズムで聞こえ続けているから、手を抜いてないのは分かる。
そのリズムを維持しながら、世間話をふっかけてるくる伊織は手が三本あるんじゃないかと疑いたくなる。両手でコマンドを絶えず入力しながらできるものなのか。
『あと三週間もしたら夏休みか』
尚も会話を振ってくる。
回復中と攻撃中の僅かな合間を使い返事を打つ。馴れればなんとかなるものだ。
『その前に期末テストがあるがな』
パソコンの斜め後ろの壁に張られたカレンダーの赤丸を見るだけで憂鬱になるが、かといって目を背けるわけにもいかない。
『私は別に気にしないけど』
『いや、そっちも下手したら補習かもしれないだろ』
中間テストの結果から見ると、伊織の成績はお世辞にもいいとは言えなかった。俺も似たようなものだが。
『補習なんてあった?』
『プリントに書いてただろ。赤点の奴は夏休み中、補習があると』
それはもう夏休みの自由時間半分が奪われるくらいの地獄がな。期末テスト直前ともなると、これを回避するために皆必死となる。中にはヤバい雰囲気を醸し出す奴までいるほどだ。
『聞いてない』
『プリントちゃんと見ろよ……今まではどうしてたんだ』
おどろおどろしいフォントで書かれていたぞ。
『授業だけで何とかなってた。……かなめは自信ある?』
『ない』
俺は即答する。あるならカレンダーに赤丸を付けて、その日の三日前から一意専心に机にかじり付くことはしない。
『それはそうだな。かなめに聞いてしまった、私が馬鹿だった』
『伊織は何か対策するのか?』
『一応。ゲームする時間がなくなるのは嫌だし』
ゲーム優先かよ……と、俺が呆れていると、突然デュラハンが剣を落とし、片膝を着いた。
『終わった』
ネピアの言葉が届いてすぐ、デュラハンの頭の部分の炎が徐々に小さくなっていき、そよ風に流されるように消えた。
直後に白銀の鎧は部分ごとにバラバラになって当然のように地面に落ち、けたたましい音を立てた――そして、
『デュラハンより聖騎士の魂を受け取った』
そんなメッセージが流れた。
『随分と時間が掛かったな』
俺は振り向いて時計を見ると戦闘を初めてから三十分が経っていた。ふと気付くと手は汗だらけで、滑ってコントローラーを落とさなかったのが不思議なほどだ。
『普通は多人数で来る場所ではあるから』
近付いてきたネピアが言った。
無口な仲間もおらず、この場にいるのは俺たち二人だけだ。
『だったら集めればよかったんじゃないか?』
『今の時期このクエストをするのはカナメくらい。集める時間を考えたら、倒す時間の方が短いと思う』
『じゃあ、伊織のメインキャラを連れてくるとかは? 早く済むだろ』
『“汝が力不足ならば同じように嘆く者達に協力を求めるのもよいだろう。結束した力は容易くは破られはしない。だが、汝に力があるならば単身で力を示さなければ聖騎士は認めてはくれないだろう”』
どこかで見たような台詞だ。
『は?』
『クエストの依頼主の台詞。まさか読み飛ばしてるの? 漢字読めないから』
『読めるっての。で、その台詞がどうしたんだ?』
『読解力がないのかカナメは? まあ、分かり易く言うとレベル制限があるという意味』
『レベル制限?』
『PTメンバー全員が一定のレベル内に収まってないと駄目ということ。誰か一人でもはみ出していたら特定マップには入れなくなる。ここだと15〜30となってる』
ちなみに現在のカナメのレベルが20でネピアは22だ。
『つまり、強いキャラの手助けは不可能ってことか』
『そう。カナメが考えた卑怯な手は使えないってことだな。残念だったな藤木』
勝手に人の名字を変えないでくれ。
『とにかく、これで念願のパラディンになれるわけか。伊織の協力のおかげだな、ありがとう』
事実、たまのスキに加えていたカナメの攻撃のダメージは、ゾウの足を噛むアリ程度しかなかった。タイマンだと何時間掛かったか……その前に回復アイテムが尽きるのが先か。
しばし返答が途絶え、俺が何かあったのかと聞こうとすると、
『別に。パラディンはどうでもいいけど、クエストクリアの経験値得られるから』
『そうか。じゃ、クリア報告しに行くか』
『ようやくパラディンになれたわけだが……』
パラディン解放クエストを受けられる神殿前に出て俺は言う。
『これからどうすればいいんだ?』
思えばゲームを開始して、まずはパラディンを目指してレベル上げに明け暮れてきたが、いざ成ってみるとこれといった感動もないことに気が付いた。
外見は装備だけでしか反映されないから当然だが、カナメの見た目も変わらない。以前助けてもらったパラディンは、いかにも聖騎士という外見だったが、その装備を揃えるには時間を要するだろう。
俺はゴールが遠いと分かると、途端にやる気を無くす。校内のマラソン大会も順位を諦め早々に時間内完走ペースに切り替えたくらいだ。
『それは自由。基本的に』
ネピアが言う。いっしょクエストをクリアし、パラディンになる資格を得たが、ジョブは大魔術師のままだ。
『フリーダム!』
『それはよかった』
『いや、これはできれば流してほしかった。というか、適当な返しだな』
せめて何で英語やねん的な返しにしてくれ。温度も気持ちも含まれない無機質な文字のやり取りのはずなのに、冷めた雰囲気がはっきりと伝わってくるのだが。
『MMORPGは一般的なゲームと違って基本的にはEDがないから終わりがない。だから、自分で何を目指すか決めるのが普通』
確かにEDが用意されてるならそれを目指す人が多いんだろうしな。
『伊織は何を目指してプレイしてるんだ?』
『カナメは人の意見を聞いてから、それに合わせるタイプだな。自分の遺志がない』
……俺は言葉に詰まる。遺志が全くないことはないが、余程押し通したくない限りは、周りの意見を聞いてから無難に答えてしまう。まあ、悪いことじゃないとは思う、協調性があると言ってくれ。
『……俺はまだこのゲームについて詳しくないんだ。具体例を知ってから決めてもいいと思うが』
ネピアは鼻で笑う。伊織がキーボードに設定しているショートカットに興味がある。
『屁理屈。ま、特別に教えるけど、私はレベル99を目指してプレイしてる。今のところは』
『その理由は?』
『面白いから』
『は?』
『それ以外に必要? ゲームは楽しむためにするものでしょ』
『そりゃまあ』
ゲームは趣味以上には滅多になるものでもないし、趣味は楽しむためにある。間違ってはない。
『ま、一応の目的としてゲーム側が用意しているのもある』
『なんだ?』
『ストーリークエストは受けたことある?』
『いや。あるのは分かってるがまだ受けてはいない』
クエストには二種類あって、さっきクリアしたような、一つのクエスト内で完結するのが一般クエストで、物語の一章、二章のように連続性があるのがストーリークエストである。
『ストーリークエストを進めていくのが、ゲームの目的の一つ。クリアしていけばEDらしい内容のイベントも用意されてるみたい』
『もう見たのか?』
『まだ。クエストをこなしていくと請け負うのに条件が加算されてくから』
『条件?』
『ストーリークエストを進めていくと、所属する国を選んで、稼いだポイントを国に献上して発展させていくんだけど……ここまで理解してる?』
『一応は。ポイントは持ち金表示のところにある“P”ってのでいいのか? どうやって手にはいるかのは分からないが』
今も微々たる数字ではあるが、溜まっている。
『冒険者協会に行けば説明聞けるけど』
『俺はそこに入ったことないが』
ネピアはやれやれと言うように俯き加減で首を左右に振る動作をする。
『……まあ、それは後で自分で聞きにいって。話を進めるけど、ストーリーを進めるには途中から、献上したポイントの合計が関わってくる。私が所属してる国はポイント稼ぎにくいから』
『だから、まだ請け負うことができないってわけか』
『そう』
『所属してる国によって稼げるポイントが変わるのか?』
『一番効率よく稼げる方法が他国との合戦で活躍することだけど、小国だから合戦がない』
各国に所属するプレイヤー同士が専用マップに集って戦うのが合戦だったな確か。領土賭けての争いで、勝てば相手の領土を奪うことができる。その領土は区分けされていて、一つしかない国は合戦を行うことはできない。だったはず……ってことは、
『何でそんな小国を選んだんだ?』
『人が少ないから』
すぐにそう返してきた。サーバー選択と同じ理由か。
『人が多いのが嫌なのか?』
『それもあるけど、多い所はつまらない人ばかりだろうから』
つまらない人か……何となくだが理由は分かるような。いつも輪の外にいたからな、多くの人の輪に加わってる奴をつまらない人だとは言わないが、俺はその輪の中に加わりたいとは思わなかった。外れた側の強がりなのかもしれないが。
『その国はどうなんだ?』
伊織はしばし考えるような間を置いてから、
『変人しかいない』
そう断言した。
『いや、それは言い過ぎじゃないか?』
『全員知ってるわけじゃないけど、領土も施設も場所も最悪でメリットもない国を選んだ時点で十分変人だと思うけど』
『場所って、何ていう国なんだ?』
俺は聞いてから、引き出しにしまっておいた“エタナリア”完全マップを取り出した。CROSS・FANTASIAの舞台となる架空世界の地図である。やや大ざっぱであるが地名などは全て記されている。
『バハルム』
返答を見て俺はまず首を捻った。地図をたまに眺めていたから、地名は結構覚えたつもりだったが、知らない地名だったからだ。
現に地図を注視してみてもバハルムは見つからない。
『どこにあるんだ?』
『一番左上』
地図の角に目を凝らして見るとようやく発見した。山と山の間に挟まれる形でバハルムと地名が小さく書かれている。
『そんな国があったとは……』
『クエストがらみで立ち寄るとこでもないし、知らない人もそれなりにいるとは思う』
山越えがパッと見て三つはあるようだし、困難な道のりを超えてくる人も少ないだろうし、ましてやそこを所属国にするというのは、確かに変人かもしれない。
『というか、伊織もそこに所属してるんなら自ら変人と言ってることになるが』
茶化すように俺が言うと、
『そうかもね』
肯定するのか。
『別に私はそう思われても構わない。そうじゃない人と付き合うのは疲れるだけ』
それは現実の人付き合いのことも含まれているように思えた。
『じゃ、俺と話すのは疲れるのか?』
休み時間や、昼休みにはコレについての話題を俺から振ってるが迷惑だったかもしれないと不安になった。
『かなめは自分が変人じゃないと思ってるのか?』
どちらかというと平凡な人間だと思っている。少々人間関係が希薄だったりするが。
『まあ、そうだな』
『かなめがそう思うならいいんじゃない』
なんか投げやりな言い方だな。
『……かなめと話すのは疲れる。別の意味で。けど、嫌ではない』
別の意味とはどういう意味かは分からないが、俺は安堵する。
『俺もバハルムに所属するかな』
わざわざそこを選んだ変人たちというのも気になるし。何よりは伊織が所属してるなら俺もそうしたい。
『苦労するだけ。ゲーム的にだけど』
『そうかもしれないが、その方が面白そうだし。伊織はどうなんだ? 面白いか?』
俺が聞くと、思い出でも振り返っているのか返答に間を置いてから、
『一応は』
『そりゃ、ゲームは楽しむもの。だしな』
『うん』
『それじゃ、当面の目的はストーリーを進めることだな。所属国決めれるようになるにはどこまで進めればいいんだ?』
『五回目のクエストまで。カナメの強さなら簡単に済ませられると思うけど、もう一つ。レベル上げもしたほうがいい』
『何故だ?』
『バハルムにたどり着く必要があるから。推奨レベルは五十だけど、通り抜けるだけなら三十くらいあれば大丈夫だと思う』
ちなみに現在のカナメのレベルは二十だ。低い頃は時間も掛からずにハイペースで上がっていたが、上がるにつれ一時間が二時間に、二時間が三時間にとペースが鈍ってきた。伊織に言わせればMMORPGの常識らしいが。
『何日掛かるかな……』
『かなめのプレイ時間なら効率良くて一週間程度で済むと思う』
伊織が言うのならそうなのだろう。このゲームの知識に関しては圧倒的に上だ。テストにCROSS・FANTASIAの問題が出たら満点に違いない。あいにくそんな問題が出る可能性は万に一つもないが。……ん、テスト?
俺は振り返ってカレンダーの赤丸の位置を確認してから、
『期末テストがあるのか』
『さっき自分で言ってたけど。ボケたの?』
ちょっとだけ失念していたがボケてはいない。ここ一週間の朝夕の献立もそらで言えるぞ。今日の授業内容よりは自信がある。
『テスト期間中はプレイする余裕はないな。間違いなく』
ゲームをしてたら詰め込んだ内容がポロリしそうだし。
『ぶっつけ本番で望めばゲームできるけど』
『おお。その後、できなくなるけどな。伊織がしたらどうだ?』
何が悲しくて夏休みに登校しなきゃならんのだ。高二の夏は留年しない限り一度しかこないというのに。
『私は補習は嫌だから。カナメ一人で受ければ』
最悪、本当に教師(男・三十代独身)とタイマン指導になる可能性もある。それは是非とも避けたい限りだ。海だとか山だとかデートとか高望みはしないが、せめて家でダラケることに時間を活用したい。
『誰だって嫌に決まってるだろ。夏休みを犠牲にするよりは、そうならないようにテスト勉強に時間を割いた方がマシだ』
そう送ってから、俺はふと頭に浮かんだことを伊織に伝える。
『そうだ、よかったらいっしょにしないか?』
その方が捗るのは坂本で証明済みだ。
『何を?』
少しして伊織は聞き返してきた。
『テスト勉強だが』
そしてまた間があり、
『主語を入れろ』
言葉と同時にネピアはムッとした表情を浮かべた。抜けてたのは悪かったが、話の流れからして分かると思うが。伊織は誰かと協力することとかもなかったのかもしれないし、思い当たらなかったのか。
『悪い。で、どうだ?』
『かなめの部屋でするの?』
俺は心臓が高鳴った。俺の部屋に家族以外の異性は入ったことがない。少し妄想が膨らむ。
『嫌なら伊織の部屋か、どこか、図書館とかでもいいが』
『かなめの部屋でいい』
すぐさま答えが返ってくる。まさか、そこまで俺の部屋に興味があるとは……
『エアコンがあるし』
あ、それが目的か。
『冷えた炭酸とアイスもあるし』
……え?
『ケーキもあるし』
…………
『豪勢な夕食もあるし』
………………
『出来る限り用意させていただきます』
『冗談』
画面の前の伊織はどんな顔でタイピングしてるんだろうか。クスッと悪戯っぽい笑みでも浮かべてたりしたら、是非見てみたいな。
『少なくともジュースくらいは用意はしとくつもりだ。で、いつにする?』
『日曜』
期末の前日か。スーパーの特売のウインナー並に詰め込めるだけ、テスト範囲内の知識を詰め込む日だな。
『分かった。日曜だな』