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過去の目撃者 ―The Watchers of Yesterday―  作者: 柴犬ちゃすけ


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第九章 孤高の科学者

 ここは、アメリカネバダ州南部にある、地球政府軍最高機密基地。別名Area 51。過去には核実験や、ステルス機のテストが行われた場所である。それ以外にも怪しい噂が流れているようだが確かではない。

 ここに一隻の巨大な船が配備されていた。

 普段は人気がなく物静かな場所だが、今日に限り、世界各国から極秘裏に集められた人達が続々と集まっていた。選ばれた者達という人種の人達だ。

 一体どれだけ荷物を持って行けば気が済むのだろう、と思えるくらい彼らの一人一人の積み込む量は多かった。

 出航の一時間前までには、全てを完了させておくように伝えてあったにも関わらず、全く終わる気配がない。

「まったくもう、この人種は自分都合でしか物を考えることが出来ないのか」

 江部は、苛立っていた。

 ようやく出航の一分前に準備が整ったようだ。

「サブエンジン始動」

「サブエンジン始動しました」

「メインエンジン始動」

「メインエンジン始動しました」

 館内における内部連絡が発せられた。その後江部はマイクのスイッチを一般放送に切り替えた。

「定刻八○○、地球優良者選抜船ノア発進します」

 選抜メンバー三千人を乗せた大型移民船ノアは離陸を始めた。

「このまま大気圏外まで上昇し、時刻九○○にワープを行います。それまでの間シートベルトをご着用願います」

 江部は館内放送でそう言ってはみたが、自分都合の人達には、あまり効果はないみたいだ。

「がはは、江部君、船の調子はどうだね?」

 将官連中が家族を連れて、操縦席まで見学に来ていた。

「皆さん、まだ大気圏内では揺れることがございます。もうしばらくお席に着かれていてください」

 これが艦長からの依頼だろうと、そちら側の都合は関係ない。

「この船はなー、お爺ちゃんが指揮して作らせたんだよ。ふっふっふっ」

 孫に自慢をしている腹の出た老人がそう言った。

「さすがです中将。結局、逃避派と壊滅派の二つに分かれましたが、壊滅派の連中は、手も足も出ずに、この船に乗り込んで来ましたからね。逃避派のトップだった中将は事実上、この船の王です」

 ごまをするこの中年は、江部と同じ大佐だった。

「まあ、判断の正しさは、歳を積み重ねた者ではないとわからないことが多いんだよ」

「まだまだお若いじゃないですかー」

 こんな会話を聞きながら、江部は舵を握っていた。

 子供達がいろんなスイッチを押しまくっているが、とにかく肝心なものだけは押させないように死守しながらの操縦は、今まで以上に難しかった。

「ここからは特に揺れますので、お席に戻られてください」

 何度目かの忠告で、ようやく邪魔者連中を操縦席から追いやった。

「大佐も苦労しますね、あの連中相手だと」

 江部の直属の部下である片岡かたおか大尉が、江部を気遣って近付いてきた。

 江部にとっては、日本人の部下と上司の関係にあたるのは、片岡だけだった。従って二人はプライベートでも付き合いが深かった。

「全くだよ。あ、そうだ、恐らくワープ後に例の連中が来ると思うから注意して見ていてくれ」

「あー、あの探偵ですね?しかし南極基地ではまんまとやられちゃいましたよ。特にあの女、私もまさかあんな目に遭うとは・・・。油断しましたよ。生死を彷徨っている間、ずっと最後に見たものが頭から離れなくて」

 片岡は頭に巻かれた包帯をさすりながらそう言った。

「あの時は、君に迷惑をかけてしまったな。申し訳ない」

「いえいえ、こちらこそ任務失敗、申し訳ありませんでした。ご命令通り大佐のご盟友だけは傷付けないように心掛けましたので、ご勘弁ください」

 片岡はゆっくりと頭を下げた。

「片岡君、無理しなくても良い。まだ頭にボルトが入った状態だろう。座っていてくれ。しかしあの若造どもめ、私も殺し損ねてしまった。出口が開いた瞬間、次に何が起こるのかわかっていたみたいだ。とっさにかわしやがって。しかも二回目は秋元の後ろに隠れやがった。そこで君に行ってもらったのだが、あんな目に合わされるとは思ってもみなかったよ」

 江部は右手で拳を作り、悔しそうにそう言った。

「最初に大佐のマシンガンを避けた時は、小僧の方がとっさに反応しましたよね。なかなか侮れない連中ですね」

 片岡は立っているのも辛いらしく、よろよろと椅子に腰掛けた。

「だがこの船に来たら、容赦するつもりはない。この船は軍隊の船だからな。君に上官を務めてもらうよ。好きにするが良い」

 江部は笑いながら、片岡にそう言った。


「時刻九○○、アンドロメダ銀河に向けてワープを行います。皆さんお席に着かれてシートベルトをご着用ください」

 館内放送で江部の声が響いたが、やはり半分以上の人達には聞いてもらえなかった。

「大佐、ワープでの衝撃はどの程度なのでしょうか?」

 乗組員の一人から質問をされた。

「まあ、シートベルトなんか締めていなくても死にはしないよ。ただ急激な加速をするために、転んで後で文句を言われたくないしな」

 江部は苦笑しながらそう言った。

「あの連中怪我させたら、後がうるさそうですからね」

 乗組員も江部の気持ちを察してくれていたみたいだった。

「ワープ十秒前、九、八、七、六、五、四、三、二、一」

 江部の掛け声と共に、正面に入口が現われた。

「ワープ」

 ノアは、遥か二百三十万光年離れた宇宙にワープを行った。

「ワープ成功、出口を塞ぎます」

 江部はそう言うと、今通って来た出口を塞いだ。

「現在の時刻九一五、この船は無事ワープに成功し、予定ポイントに到着しました」

 館内放送で江部はそれを伝えた。シートベルト着用のサインを消したものの、何か違和感を感じていた。

 なにかがおかしい。それが何かはわからない。ただ江部は次に何をすべきかだけを必死で考えていた。

「出口がもう一つ現われました」

 片岡からのこの連絡に、江部は驚いた。

「ん?誰だ?」

 首を傾げながら答えた。

「は?えっと、誰でしたっけ?」

 片岡も首を傾げだした。

「だから君は誰なんだ?と聞いているんだ」

 江部は、もうほとんどなくなってしまった片目に手をやりながらそう叫んだ。

「あん?お前こそ誰だよ」

 片岡も怒鳴り返した。

「出口が大き過ぎる気がします。何かわかりませんが、おぞましい気配を感じます」

 別の乗組員が悲鳴のようにそう言うと、ノアは嵐に巻き込まれたかのように大きくうねり操縦不能に陥った。

「出口が大きく歪んで見えます。何か近付いて来ます」

 乗組員からの声はもう江部の耳には入っておらず、ただ呆然とその光景を見てたたずんでいた。

「うちら仲間だよな?どうしてこんなことするんだ。・・・、ん?うちらって誰と誰だ?ここはどこだ?この船はなんだ?私は一体誰なんだ?何も思い出せないぞ。どうなっているんだ」

 ダークマター彗星はまるで象が蟻を踏むかのごとく、何事も無かったかのように、大型移民船ノアを破壊し、そのまま通過して行った。

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