魔法の世界
男は改めて自分の所属を名乗った後にこう切り出した。
「元の世界に帰る方法は今のところ見つかっていない」
覚悟はしていた。
それでも、かつての日常の風景や両親、親しい友人の顔が走馬灯のように駆け巡った。
でもなぜ僕はこの世界に来てしまったのだろうか。
何らかの魔法によって呼び出されたのか。
疑問は思い浮かぶが彼は話を続ける。
「とりあえず戸籍とデバイスは用意した。」
そう言うと、紙の資料と輪ゴムのような形状のモノを渡してきた。
紙の資料には、一般的な戸籍に並行世界出生となっていた。
輪ゴムのようなモノを腕につけると、ホログラムと呼ばれている技術に近しい画面が表示される。
ここからネットにアクセスすることができたりメモやタイマーなどの機能もあり、スマートフォンに近しいものであった。
「話を進めるぞ」
僕は画面を消して、姿勢をただす。
「それはお前にやる、ただ無償とは言えないがな。」
ニヤニヤしながら彼は続ける。
「ちょっとここで働いてくれ。それがお前を助ける条件だ、もちろん給料は天引きしたうえで渡す。悪くない話だと思うぞ。」
彼の話は、問題ないように思える。
ただ僕は就労経験もなく、ここで働くつまり警察として働くということだ。
公務員になるのであれば試験があってもおかしくないし、対魔法警察なんてどっからどう見ても荒事それも魔法を扱う仕事だ。
魔法?
そういえばこの世界には魔法があって、それが一般普及されていることは昨日聞いた。
でも魔法は誰もが普段から使えるようなものなのだろうか。
魔法なんて誰が使ったとしても一定の殺傷能力を有するであろうものを誰もが使って良いのだろうか。
攻撃するための魔法がない世界なのだろうか。
もしそうなら魔警はなんのためにあるのだろうか。
思考を巡らしていると、いつの間にかいなくなっていた男が分厚い本を数冊抱えて帰ってきた。
本は魔法に関する法律がみっちりと書かれているものであった。
少し見て本を閉じる。
一呼吸おいて再度開く。
幾度か繰り返して3つほどの項を読んだものの頭痛が襲ってきそうになったので、本を突き返した。
「こんだけ細かい法律が作られているものの、魔法を使った犯罪は無くなっていない。しかも検挙率も最近は上がっているとはいえ9割に届かない。なぜだかわかるか?実働部隊が足りていないんだよ。魔法が世界に浸透して以来、世代が新しいほど魔法使いとしての質が上がっている。それは犯罪者にも言えることだ。この部署は、そういった若年層の魔法犯罪の内凶悪犯を取り締まるために設立されてはいる。しかし実質的に犯罪現場に出れているのは、俺だけだ。」
若干の苦労が見え隠れする。
でもなぜ僕なのだろうか。
その答えは意外とすぐに解消されることになる。
「俺は、この世界で一番強いし大体何でもできる。でも出来る事なら負担を減らしたい。丁度そんなことを考えていたときに、ちょうどいい人材を拾った。それがお前だ。お前の魔力は素晴らしい。」
僕にはどうやら魔力があるらしい。
これは朗報だ。
嬉しさが顔に出てしまったのだろう、彼は話を続けた。
「どうやら了承してもらえそうだ。実際に稼働を始めるのは高校を卒業してからになるだろう。君には俺と同じ高校に入ってもらう。勿論テストは受けてもらうし、一般で受けた人どころか推薦で入った人よりも厳しい試験になる。一ヶ月もないが、この世界の常識と魔法に関する基礎知識、その他の科目もやるからな。」
どうやら僕は地獄に足を突っ込んだらしい。
それでも僕が生きていくにはこれしかない。
僕は魔法と高校というフレーズに心を躍らせていた。
プロローグ終了です




