17 最終話 現実を見ていない母と息子
達也は決心した、最初は妻から始まったことだ息子に対して失望を感じていた。
自分の言葉が届かなかったのだ。
過去に飼っていた記憶が現実だとしても、あの犬がルークだというのは完全な間違い、勘違いだ。
専門家、槇原の言葉を聞いた後、達也は自分でも調べた。
色々な事実を知った。
引き取って飼育など無理だ現実的ではない。
達也は決意した。
息子の達也は専門家でも間違っている事はあるんじゃないかという。
それだけではない、父親の自分は自分の芸能活動を否定している。
味方は母親の梨香子だけだと平気で言うのだ。
救おうとしても達也自身が否定拒絶している。
向き合う事ができないと思った。
もう、何を言っても無駄だと分かってしまった。
最初は妻、恵梨香がネットにあの書き込みをした時も、まだ「感情的になっているだけだ」と思っていた。
だが、時間が経っても、彼女の言葉は変わらなかった。
“雪はルークだ”
その一点を疑おうともしなかった。
息子まで同じことを言い出したとき、達也は初めて深く失望した。
教育の問題ではない。理屈でもない。
自分の言葉が届かない。
その現実だけが、静かに胸の奥を冷たく締めつけた。
槇原の話を聞いたあと、達也は念のため自分でも調べた。
血統、毛色、寿命、病気。
グレートデンという犬種の現実は、数字と記録で残酷なほど明確だった。
(あの犬がルークであるはずがない)
そう確信したとき、不思議なほど感情は動かなかった。
悲しみでも怒りでもない。
ただ、冷たい納得だけがあった。
引き取って飼育する?
現実的ではない。
それどころか、彼らは犬の命を軽く扱っている。
流行りのペットを手に入れては飽き、手放す。
“また飼えばいい”という軽さが、彼女と息子の中に根を張っていた。
その軽さが、もうどうしようもなく嫌だった。
修司は言った。
「専門家だって間違うことはある」
もう、終わらせなければならない。
家族のためではなく、自分のために。
達也はその夜、机の引き出しから離婚届を取り出した。
封筒の角が、やけに冷たかった。
「あの犬をまだルークだと、そう言うなら——離婚を考えている」
達也の声は低く、静かだった。
テーブルの上で、マグカップの湯気が細く揺れている。
梨香子はカップを持つ手を止め、ゆっくりと顔を上げた。
「離婚って、何を言ってるの?」
「修司にも話した。中学生だ、現実を知っていい年齢だと思ってな」
「話した? 何を?」
「もしも母さんが、まだあの犬をルークだと言い続けるなら、俺たちは“家族”でいる意味がない、そう伝えた」
梨香子は短く笑った。
「なにそれ。脅してるの?」
「違う。確認してるだけだ」
その声には、怒りも焦りもなかった。
ただ、決意だけがあった。
だが、梨香子には、その静けさの意味が伝わらない。
(どうせ本気じゃない。いつもの真面目ぶった警告)
心の中でそう言い聞かせながら、彼女は再びカップを口に運んだ。
苦味が舌に残ったが、達也の言葉ほどには強くなかった。
達也は槇原に連絡を取った。
「お願いしたいことがあります。会って、直接頼みたい」
その声は落ち着いていたが、どこか決意の影があった。
喫茶店の奥の席。
昼下がりの静かな空間に、客はまばらだった。
窓際の光が白く揺れ、テーブルに伸びた影の中で、達也はゆっくりとカップを置いた。
「終わりにしようと思っています」
短く、しかし揺るぎのない声だった。
槇原は目を伏せ、わずかに息を吐く。
数日前、達也と話した時から、この結末をどこかで予感していた。
言葉では届かない場所に来ているのだと。
槇原自身、雪という犬を見て思っていた。
あの犬が“ルーク”だなど、現実的ではない。
槇原は沈黙した。
「はい。二人とも感情でしか動けません。
私が話しても、ただ反発するだけです。
でも——あなたの言葉なら、逃げられないでしょう」
槇原はゆっくりと視線を上げた。
その瞳には静かな決意が宿っていた。
「分かりました。ただ、私の言葉が、彼らにとって救いになるとは限りません」
達也はわずかに口元を歪めた。
それは笑みというより、諦めの表情に近かった。
「救わなくていいんです、真実を知ることが、罰になると思っています」
その日、槇原は達也の頼みを引き受け、彼の自宅を訪れた。
玄関を入ると、微かな緊張の空気が漂っていた。
テーブルには三人分の湯気の立たないカップが並んでいる。
槇原は席につくと、姿勢を正し、穏やかに切り出した。
「まず、専門家としてお話しする前に確認させてください。
あなた方お二人は、あの犬を直接見たことがありますか?」
梨香子と修司が互いに視線を交わし、同時に首を振った。
「テレビのインタビューだけです。でも……わかりました。あの白地に黒の斑の模様、間違いなくルークです。」
梨香子の声には確信があった。
修司も頷き、母親の言葉を後押しするように言った。
「僕もです。あの目の感じとか、ルークのままだから。」
槇原は静かに、しかし明確に首を横に振った。
「私はスタジオのインタビューの現場にいました。
直接、あの犬を見ました。」
少しの間を置いてから、淡々と続けた。
「最初に思ったのは——雄犬よりも大きいということです」
梨香子が瞬きをした。
修司も眉をひそめ、何か言いたげに口を開きかけた。
槇原はその反応を確かめるように、ゆっくりと視線を二人に向けた。
「意味がわかりますか?」
梨香子が黙ったまま、視線をそらした。
槇原は続けた。
「大事なのはそこではありません。
スタジオに入ってくるとき、犬は——首輪もリードもつけていませんでした。
ハンドラーも、調教師も、誰一人として傍にいなかった。」
部屋の空気が重くなった。
「制御する人間がいなかったんです。」
槇原は言葉を区切りながら、静かに付け加えた。
「命令を出す人も、指示を送る人もいなかった。
その意味が、わかりますか?」
しばらくの沈黙のあと、梨香子が小さく声を出した。
「……それは、躾が行き届いているからでしょう?
ちゃんと訓練された犬なら、静かにできるはずです。」
槇原はゆっくりと首を横に振った。
「無理があります。」
言葉は柔らかかったが、その奥に冷たい現実があった。
「スタジオ内には、照明機材やカメラ、複数のスタッフ。
見慣れない人間、強い照明、狭い導線、普通の家庭犬にとっては、強いストレスを感じる環境です。そこにリードもつけず、それは、訓練の域を超えています。」
梨香子が言葉を失う。
修司が何か言いかけて、唇を閉ざした。
「専属の食事係がついています」
槇原の声は落ち着いていた。
「インド出身の女性です。日本語は挨拶程度しか話せません。普段はイタリア語を使っています。それで犬と意思疎通しているそうです」
「イタリア語? 嘘でしょう」
梨香子の声が少し上ずった。
修司も目を見開いたまま、何も言えなかった。
「撮影現場には、フランス人、イタリア人、ドイツ人、それに韓国人のスタッフがいました」
槇原は淡々と続ける。
「役者の神崎さんが言っていました。皆、それぞれの国の言葉で、自然に犬に話しかけていたそうです」
梨香子が唇を噛み、ようやく言葉を探した。
「じゃあ……日本語は?」
槇原は短く首を横に振った。
「理解はしています。ですが、反応しません」
梨香子の表情が凍りついた。
槇原は無言のまま、梨香子と修司に視線を送っていた。
そのとき、不意に胸ポケットのスマートフォンが小さく振動した。
わずかに眉を動かしながら取り出し、画面に目を落とす。
一瞬、肩の力が抜けたように、槇原の表情が和らいだ。
予感は、やはり確信に変わったのだ。
達也の方にゆっくりと顔を向け、小さく頷く。
「これから、事実を突きつける」と無言で告げる仕草だった。
「……誰、この人?」
梨香子が声を絞り出した。
その女性は、まるで現実感がなかった。
槇原はゆっくりと答えた。
「海外で活躍している犬だと思いました。――この女性は、パリコレでモデルをしている人です」
「パリコレ……?」
梨香子の口がかすかに動いた。
理解できないというより、“現実の想像が追いつかない”という顔だ。
横で修司も同じ表情をしていた。
槇原は、さらに言葉を重ねる。
「一般の人間は招かれません。顧客と称される限られた人々だけが案内される、特別なショーです」
画面をスライドすると、別の写真が映し出された。
巨大なランウェイ。観客の中には、著名ブランドの創設者や企業家の姿が見える。
その中央を、金髪の女性と“雪”がゆっくりと歩いていた。
梨香子は息を飲んだ。
口元を手で覆いながら、ただ画面を見つめている。
「そんな、ありえない……」
槇原の声が、静かに響いた。
「この犬は、そういう環境で育ったんです。
パリのデザイナーのアトリエ、映画スタジオ、リゾート。
見知らぬ人間の声には反応しません。――“場”を読んで行動する、それが彼女の日常なんです」
達也が小さく息を吐いた。
その横で、梨香子はまだ信じきれないように画面を見続けている。
修司の表情は、次第に固くなっていった。
槇原はスマホを静かに胸ポケットに戻した。
「あなた方が“うちの犬だ”と名乗った相手は、もう――別の世界に生きています」
【速報】公式サイト更新「雪、家族のもとに帰りました」←写真が映画越えてる件【現実?】
1:名無しさん@お腹いっぱい。
さっき公式見た?
映画完成記念の集合写真ともう1枚……
「雪は家族のもとに帰りました」って。
写真、完全に現実感ぶっ壊れたわ。
2:名無しさん@驚愕
なんか室内だけど明らかに日本じゃないよな。
家具のセンス、天井の高さ、壁の飾り……どっかの豪邸?
3:名無しさん@オタクじゃないが
あの金髪の女性、パリコレのモデルじゃね?
名前思い出せないけど顔見たことある。
一般人じゃ絶対ない。
4:名無しさん@犬好き
雪、真ん中でこっち見てるけど、めっちゃ自然。
ソファにちょこんと座ってて、人間扱いされてる感すごい。
5:名無しさん@家族構成が謎
左端に日本人女性いたよな?
インド系っぽい女性もいたし、白髪の外国人男女もいた これ、完全に“多国籍家族”って感じだった。
6:名無しさん@しんみり
映画より映画っぽいってどういうことなん。
ドラマの演出超えてるぞこれ。
7:名無しさん@信じたい
「雪、リラックスしてない」って言ってる人いたけど、逆じゃね?
あの落ち着き、家族に囲まれてる安心感だろ。
8:名無しさん@嫉妬中
普通の人間じゃあの輪の中に入れない。
犬の家族にすらなれない気がして落ち込むレベル。
9:名無しさん@涙腺崩壊
“帰った”って、こういうことか……
あの写真見たら分かる。
ルークとかじゃなかったんだよ、最初から。
10:名無しさん@納得したくない
でも映画の一部かも?って思ってスクロールしたけど、完全に“公式コメント付き”だったから現実確定。
なんかもう、泣けた。
11::名無しさん@まとめ民
・写真は豪邸のリビング(海外確定)
・金髪女性=モデル説濃厚
・インド系、日本人、白髪の欧州系老夫婦=家族?
・雪は中央で堂々と座る
・違和感ゼロ、家族写真確定
「ルーク」って言ってた人、これはもう無理だろ……。
達也は、ノートパソコンの画面を静かに閉じた。
手のひらに残る熱が、奇妙に現実的だった。
公式サイトに載ったあの写真。
雪は、確かに帰るべき場所に帰っていた。
そこには偽りも演出もなかった。
――日本ではない。梨香子や修司の届かない、別の世界。
部屋の灯りを落とすと、闇が音もなく満ちていく。
その中で、達也は小さく息を吐いた。
長い緊張が、ようやくほどけていくのを感じた。
妻の暴走を止められず、息子の目を覚まさせることもできなかった。
だがもう、これでいい。
自分が守るべき現実は、まだここにある。
雪が本当の家族のもとに戻ったように、
自分もまた、ようやく“現実”に戻れるのだと思った。
達也は立ち上がり、窓の外を見た。
冬の夜の空気が、静かに息を吸い込むたび、肺の奥を冷たく洗っていく。
どこか遠くで風の音がした。
「――これでいい」
その言葉は、誰に向けたものでもなかった。
だが確かに、達也の中でひとつの物語が終わっていた。
完結です。
チャットGPTを使ってみました。
説明不足とか、もっとこうすればよかったなんて思うところもありますが。
自分としては初の試み、ここまで長く続いたなと思います。
ライトノベルの長編から短いだろうと思いますが。
次回作、恋愛ものを書いてみたい。
GPTを使ってと考えています。




