表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/91

不思議な露天商

その街がどこの国にあるのか知る者はいない。

訪れる者はいつもその街の入り口、アーチの前に気が付いたら立っているからだった。


目に映るモノは青と紫の入り混じった空に、どこまでも続くかの様な川。

川は街の真ん中を流れ、挟む様に露天商が立ち並んでいる。

そして、タイルの道に沿って立てられた篝火が水を照らし、売り物のランプやロウソク達が道を照らす。


ある者はお祭りを思い出し、ある者には異国に見えるだろう。

懐かしい感じと、不思議な感覚がその身を包む街。


露天商には各一人店主がおり、客人が来るのを待っている。

1番アーチに近い右側に、川を進む為の船が着けられていた。


船頭は黒い布を纏う、やせ細った枯れ木の様な手足をした爺。

その体に似合わない、長く白い髭を暇なのか面倒臭いのか…時折撫でる。


そして、川の端からその先に立つアーチを眺めている。

街の外に流れている川の始まりが何処から来て居るのか、見る事は叶わない。

それでも、彼はずっとその先を見ている。


立ち並ぶ露天商には、目が眩む程の珍しい物が沢山並んでいるが、その中に一際気が向く店があった。

置いている物は他の店と大差無い様に見えるその店は、ナオと言う名の店主が立って居た。


「暇なん?」


店先に流れて来た船頭…カロンをちらりと見て、気軽いながらも、やや呆れたように声をかける。


「…暇なのはお前だろ」


ナオの店の物は買われる事が無く、ただの「橋渡し」を頼まれる事を知っていた。

以前のカロンがしていた事だ。


街が綺麗に直った後、露天商の元店主達が何人か戻って来た。

最期の地に向かうあの道から、引き返してきた。


新たにアーチを通って来た亡者達も加わり、今はあの惨劇の名残はほぼ無い。

ナオの…元カロンの店の欠けた屋根ぐらいだった。


ナオの背後にはあの木があった場所が見える。

そこにはもう、カロンの木は無い。

代わりにナオの木が…小さな枝が植えられている。


あの3人の客人が待って居た友人達も程なく現れ、4人で街を満喫した後は、カロンの船に乗り、仲良く流れて逝った。


ナオは背中の荷が下りた気がしたが、全てカロンの力と神達のおかげであった為、持っていた代価を引き換えにした事をまだカロンが引き摺り、腑に落ちていないのを感じ、少し申し訳ないと思っている。

それを本人に見せはしないが…。


コトッという音と共に、店の台に置かれた物を、ナオは手に取り眺める。

物を眺めるとその先に「渡す相手」が視える。


「分かった。…渡しとくわ」


ナオがニカッと目の前の客人に笑う。


「言葉遣い…」


客人の後ろで大きなため息を付きながら、苦言を呈すカロンにも笑顔を向ける。

2人のやり取りを見た客人が、少し笑い頷いた。


「はぁ…」


カロンのため息の返事を受けると、店先の客人は川を渡る船に乗り、カロンの導きで川を流れて逝く。

流れゆく船に、手を振る周りの露店の店主達と街は気楽に賑わったまま、カロンだけがいつも気が重い。


しかし、青と紫の空を見ては目を細め、篝火やランプ、蝋燭に照らされたキラキラと輝く川が流れる街を振り返っては、口角が自然に上がる。


そして預かりモノを磨くナオの姿を、慈しむのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ