不思議な露天商
その街がどこの国にあるのか知る者はいない。
訪れる者はいつもその街の入り口、アーチの前に気が付いたら立っているからだった。
目に映るモノは青と紫の入り混じった空に、どこまでも続くかの様な川。
川は街の真ん中を流れ、挟む様に露天商が立ち並んでいる。
そして、タイルの道に沿って立てられた篝火が水を照らし、売り物のランプやロウソク達が道を照らす。
ある者はお祭りを思い出し、ある者には異国に見えるだろう。
懐かしい感じと、不思議な感覚がその身を包む街。
露天商には各一人店主がおり、客人が来るのを待っている。
1番アーチに近い右側に、川を進む為の船が着けられていた。
船頭は黒い布を纏う、やせ細った枯れ木の様な手足をした爺。
その体に似合わない、長く白い髭を暇なのか面倒臭いのか…時折撫でる。
そして、川の端からその先に立つアーチを眺めている。
街の外に流れている川の始まりが何処から来て居るのか、見る事は叶わない。
それでも、彼はずっとその先を見ている。
立ち並ぶ露天商には、目が眩む程の珍しい物が沢山並んでいるが、その中に一際気が向く店があった。
置いている物は他の店と大差無い様に見えるその店は、ナオと言う名の店主が立って居た。
「暇なん?」
店先に流れて来た船頭…カロンをちらりと見て、気軽いながらも、やや呆れたように声をかける。
「…暇なのはお前だろ」
ナオの店の物は買われる事が無く、ただの「橋渡し」を頼まれる事を知っていた。
以前のカロンがしていた事だ。
街が綺麗に直った後、露天商の元店主達が何人か戻って来た。
最期の地に向かうあの道から、引き返してきた。
新たにアーチを通って来た亡者達も加わり、今はあの惨劇の名残はほぼ無い。
ナオの…元カロンの店の欠けた屋根ぐらいだった。
ナオの背後にはあの木があった場所が見える。
そこにはもう、カロンの木は無い。
代わりにナオの木が…小さな枝が植えられている。
あの3人の客人が待って居た友人達も程なく現れ、4人で街を満喫した後は、カロンの船に乗り、仲良く流れて逝った。
ナオは背中の荷が下りた気がしたが、全てカロンの力と神達のおかげであった為、持っていた代価を引き換えにした事をまだカロンが引き摺り、腑に落ちていないのを感じ、少し申し訳ないと思っている。
それを本人に見せはしないが…。
コトッという音と共に、店の台に置かれた物を、ナオは手に取り眺める。
物を眺めるとその先に「渡す相手」が視える。
「分かった。…渡しとくわ」
ナオがニカッと目の前の客人に笑う。
「言葉遣い…」
客人の後ろで大きなため息を付きながら、苦言を呈すカロンにも笑顔を向ける。
2人のやり取りを見た客人が、少し笑い頷いた。
「はぁ…」
カロンのため息の返事を受けると、店先の客人は川を渡る船に乗り、カロンの導きで川を流れて逝く。
流れゆく船に、手を振る周りの露店の店主達と街は気楽に賑わったまま、カロンだけがいつも気が重い。
しかし、青と紫の空を見ては目を細め、篝火やランプ、蝋燭に照らされたキラキラと輝く川が流れる街を振り返っては、口角が自然に上がる。
そして預かりモノを磨くナオの姿を、慈しむのだった。




