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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
青い雫のネックレス

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クロの願い

真奈美はクロが使っていた猫用ベッドを抱きしめ、泣き続けた。

最期に聞いたクロの鳴き声が、ずっと頭に響く様に。

苦しそうな声を聴きたくなかった。

でも、聞こえなくなるのも怖かった。

全てを覚えていたかったけれど、居ない事が悲しくて、両親があの時捨てさえしなければと酷く恨み、憎んだ。

クロの代わりに両親が苦しめば良かったのだと、叫んで暴れて、何もかもを壊したくなった。

けれど、あの人達の顔すら見たくなくて、ただただ空っぽのご飯の器と、まだ水が入っている器に目をやり泣き、気絶をする様に眠り…息絶える瞬間のクロを夢見ては叫んで起きる毎日を繰り返した。


空に送る事すら耐えがたく、火葬に来た車の横に終わるまでしゃがみ、出る熱と煙を見送った。

小さかったクロが更に小さく白い物に代わり、小箱の中に入れられるのを真奈美は違う物を見るかの様にただ突っ立て見ていた。

遺骨に触れ、骨壺へ入れるのは全て誠が担った。

誠も目が赤く涙の跡がクッキリと顔に付いていたが、それを何ともなしに真奈美は眺め、何故彼は泣いているのか?と考える程に、自分が乖離していた。


そしてまた、クロのベッドを抱いて泣いていたはずだった。

今目の前に居る、露店の店主が、ネックレスを手渡した事で胸の痛みが、狂おしい程のクロへの想いが、涙となって溢れ出している。


「もう少し…奥を覗いてみてください」


店主がぎゅっと石を握らせた。


暖かな、柔らかい猫の…毛の、体の手触り。

鼻のちょっと湿って冷たい感触。

ぷにっと…弾力のある肉球。

硬い牙の…鋭さ。

青い…目。


キラキラと色々なモノが流れてくる。


『私は幸せでした』


誰かの声が聞こえた。


『狭いアパートも部屋も、2人と一緒に住んだ家も』


低い位置から部屋を眺めている様な景色が、脳裏に浮かんだ。


『全部、大好きです』


心が切なく苦しくなり、真奈美は涙を拭う事さえできなかった。


『草の間を走り、知らない猫に囲まれ、怪我を負いながらも探したのは…真奈美。あなたの笑顔だけが希望だった。痛かったし怖かったけど、また会えてうれしかった。私の事で本当の願いを諦めないで』


「クロ様からの…最期の願いは、届きましたか?」


目を開けると、店主がハンカチを手に顔を覗き込んでくる。

真奈美は両手でぎゅっとネックレスを握りしめた。


「はい」

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