25
波紋と波紋が重なり合い輪になると、そこから勢いよく水柱が上がった。
焚火の光で所々金色に輝く水は、代価を包み…うねる。
誰もが動く事が出来なかった。
あの惨劇を生んだ、川の氾濫を思い起こす水の動きに恐れ、慄いたのもあるが…浄化された川は美しかった。
恐怖で目を閉じていた者達も、いつしか優美な水の動きに目が離せなくなっていた。
川から立ち上った金色の輝きは、川辺の均された土を撫でた。
瞬く間にタイルの道が引かれ、焚火は木を組まれた篝火に変わる。
それを待っていたかのように、空に光り輝く馬車が現れ何かを振りまいた。
「やはり…」
カロンは自分が掌の上だと言う事を痛感する。
分かっていた。
解っては居たのだ。
「…しかし、二度と…もう…しない」
二度と掌の上で操られる様な事は…と、硬く決心をする。
カロンの呟きを聞いた戦車に乗った女神は「無意味な事を」と、唇を微かに上げて去った。
目が見の振りまいた何かは、水の動きによって幾つもの塊に分けられていった。
水が引くとそこには露店が出来上がっていた。
「おおぉ…」
至る所から歓声が上がった。
目の前に居る3人が特に飛び跳ね、喜びを体全体で表現する。
その隣で、あんぐりと口を開けた直が立っていた。
「すげえ…」
目を輝かせ、ずっとそう言い続けている。
カロンは悪い気がしなかった。
水が飛び跳ね、客人にかかりかける。
「あぶねっ!」
直が客人を庇う。
「大丈夫だ…今の川の水は…大丈夫」
カロンの言葉にほっとした直が、上を見上げると遠くの空に誰かが居るのが見えた。
先程の女神だろうか?そう思ったが、どうも男性に見える。
「あれが…」
ハデス。
冥界の王。
そして、その隣の女性…ペルセポネ。
何やらもぞもぞとハデスの袖を引っ張っている様だ。
目の前のカロンの頭上を飛び越え、にふぁさっと布が飛んできた。
直はそれを掴むと身に纏う。
「渡すの忘れてた」とでも言いそうな、気軽な彼女は直が顔を上げるの見ると、腕を振り彼と共に空の向こうへ去って行った。
下を見ると、カロンは船の上でへたり込み、街は依然と変わらない姿を取り戻していた。
「後は…露店主達だが…」
カロンが疲れた様な声を出し、4人の姿を見る。
直の恰好が以前の自分と重なる。
「お…お前…」
愕然としているカロンに「俺『預かりモノ』するわ」と、直が笑顔で答えた。
指を二本立てたハサミを模した手を、掲げて。




