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神の木とは言え、小枝一本で「街を直す」願いは無理だった。
願いが大きすぎる。
まして「もう一人の友人」が来るまでに…とは。
カロンは「無理だ」と言い切るべきだった。
それでも、目の前に居る直と客人の姿を見ると、言えなかった。
「俺が…あほな事したから…」
直はグジグジと自分を責める。
このまま、直が「預かりモノ」の橋渡しをする者になるとして、街が直るまで…最悪の場合、友人とやらが直る前に来てしまったら…後悔でずっと…。
自分の近くで、こんな態度を取られ続けると思うと、カロンはゲンナリとした。
それでなくても、邪魔くさい相手になりつつある直が…、更に鬱屈とした空気を纏う。
避けたい状況だった。
それに…今のカロンには船頭と同じく「川を制御する力」があった。
そして、月夜の祝福が残る、美しい水面を揺らす川。
誂えた様に状況が揃っている気がした。
まるで、彼女の思惑通りに事が運ぶ…。
カロンの脳裏にまた、ペルセポネの微笑みが浮かんだ。
彼女は神だ。
造作もない事だろう。
しかも…。
ちらりと直の顔を見る。
幼子の時は女児の様に可愛らしかった顔が、スッキリとした好青年の顔になっている。
…ペルセポネは顔の良い者が好きだ。
それはカロンにも言えた。
眉間に皺を寄せ、櫂を掴む手にも力が入る。
胸の奥にある「自分が元凶」と言う罪悪感が「解放せよ」と求める様に、ズキズキと痛んだ。
カロンが悩んでいる間に、直と客人の側に二つの影が近寄って来た。
青いカバと紫のキリンを、それぞれ大事そうに両手で握りしめていた。
3人から見える代価の量で、善行を多くしてきた事が分かる。
「人を大切にする人が好き」
ペルセポネの囁きが、耳を霞めた。
彼女の…彼らに協力する動機が、ここにもあった。
代価を青いカバを持つ者が差しだした。
カロンが受け取らずにいると、いくつも取り出す。
それにつられて紫のキリンを持つ者も、両手いっぱいに差し出してきた。
足りないと見たのか、あたふたと緑のサルの者もありったけを出そうとする。
「はあぁ…」
カロンは大きなため息を付いた。
「…代価を…仕舞え」
3人が気落ちした様子で、立ち尽くした。
代価では無理なのだ。と、カロンに拒否されたと3人は考えたのだろう。
「良いから…仕舞え。そして、少し離れていろ」
3人と直にそう言って、手で後ろに下がるように指示する。
「月夜で浄化されたとはいえ、巻き込まれると危険だからな」
そう言うと、4人が後ろに下がるのを確認し、船頭から引き継いだ袋の代価を、船上から川へばら撒いた。
唖然としている4人と、何が始まったのかと興味津々で遠くから眺める客人達。
「良いか、皆、そこを動くな」
カロンは櫂を川へ下ろした。
真っすぐに下ろされた櫂は、水面を波経たせ、ばら撒かれた代価へと波紋を広げた。
そして、代価に当たった波紋が複数に広がり、波紋と波紋が出会い増やし、水面が煌めいた。
「巻き込まれぬ様に…な」
カロンは、押しに弱かった。




