22
アーチが元の姿に戻った。
「これで…俺の船頭としての客人が新たに来るだろう…」
そして…。と…愁いを帯びた声で続けた。
「お前も…戻れる…」
まだ、直の体に代価の在処は見えない。
彼は生きている。
あのアーチを潜れば、現世に帰れるのだ。
「あちらに戻っても、そう時間は経っていまい」
1年に一度来る「月夜」が来なかったから正しくは分からないが。と前置きをしながら、ほんの数年…2,3年の事だとカロンは言う。
「そっか…」
直が気のない返事を返し、街を見回す。
「俺…ここに居ちゃダメかな…」
「何を言う」
「…戻っても…アレやし…こんな風に壊したんも…俺やし…」
街の事を気にしている風だったが、本音はそうでない事がカロンにも伝わっていた。
生きた人間がここへ留まる事は出来ない訳じゃない。
ただ、ここの物を食べてしまえばいい。
しかし、この状況でそれを差し出す者も、代価も無い直にとっては無理な話だった。
「ここの物を喰わず、長期間居ればお前は死ぬ前に消える」
「それでも…良いや」
「お前の…姉の美香は…」
それを望んでいない。そう言いかけたが、言葉を飲み込んだ。
カロンに美香の本当の気持ちは分からない。
目の前に居る直の気持ちすらも…知らない。
何が誰にとって幸せなのか、言い切れる位置に居ない事だけは、知って居た。
「…好きに…しろ」
漂う船を土で均された川辺に着け、座った。
2人の会話が終わるのを、待って居た様に客人が1人直へ駆け寄って来た。
何やらアーチを指さし、地面に何かを描いている。
「何だ?」
カロンは船上からそれを眺めた。
「あ、あぁ…なるほど…んー」
直は通じているのか理解しながらも、困った顔をした。
少し焦っている風の客人と会話をしている直の、腰辺りに何かがゆらゆらしていた。
「…おい」
カロンは会話の終了を待たずに声をかけた。
「それ…」
「あぁ。これ?なんかさっき貰った」
「誰に?」
「…多分。ペルセポネ…様…?」
驚愕したカロンが勢いよく、立ち上がった所為で船が大きく揺れ、水が客人にまで跳ねた。
「ああああ、もう!」
カロンは頭を抱えた。
「何ぃ…」
直が引き気味に体を横にずらした。
その動きに客人も習い、距離を取る。
「お前の持っているそれが…神の木だ」
カロンが直の腰に刺さっている木の枝を指さす。
「んぁ?神の…木?」
「あぁ、願いを叶える…俺のと一緒の…」
直は雑に刺していた木を手に取る。
普通の木にしては、綺麗だと確かに思っていたが…神の木とは考えても居なかった。
「じゃあ。これで…街、直せる…?」




