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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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83/91

19

カロンは街から続く元店主達の、行列を見た。

皆、無言で歩いていた。


チラチラとその姿を照らす篝火は、まだ旅路の始まりに過ぎず、最期の地まで届いていない。

先陣を切った者に、彼らが追いつくのはいつだろうか。

その時彼らはどうするのだろう。


追い越し、またすれ違い。

1人…2人と先陣に合流する後続の者達が増える。

ぞろぞろと歩く姿は、一定の速度で動き停止し、また動く。

繰り返し繰り返し。


亡者の列は火を点しながら歩いた。


街は瓦礫がすっかりと取り除かれ、タイルの道では無いものの、平らな道に変わっていた。

船は毎回上限4人と決め乗せていたが、時折アーチ下に新しく来るモノが居るが、通れるくらいの小動物達で、上限に満たないまま航行する事が増えた。


その者達はアーチ下から船に乗る間での間、街で動いている直達を癒したが、代価を頂けないカロンからしたらランタン用の代価が減るだけで良い気はしない。

カロンは溜めていたはずの代価が減っていく事に、少しイライラしていた。


「なあ」


気安くなっていく直の態度にも、腑に落ちないモノを感じた。


「なんだ」


ぶっきら棒だがそれでも返事を返した。


「カロンってそんな面倒臭がりだった?」


直は始めこそ「さん」を付けて呼んでいたが、最近付けなくなっている。


「元々だ」


カロンは鼻であしらう。


瓦礫が無くなり綺麗になったとはいえ、まだまだ店も何も無い。

あるのは元カロンの店の残骸と木の残り。


「あの、店さ…」

「潰していいぞ」

「え…」

「木もその内枯れる」

「そうなん…か?」

「あぁ」


船の上にカロンは胡坐をかいた。

よぼよぼとした小さな犬が、カロンの船に近付いている。

その犬が乗り込むのを待っている間、直の相手をする事に決めた。


「俺…あんたみたいに店、持ちたいんだ」


直が拳を握る。

無表情のまま、カロンは直を眺めた。


「だから…潰すんじゃなくて…使って良いか?」


真っすぐな視線を向ける直に対し、面倒臭そうにカロンは頭を掻いた。

相手する気になるのではなかったと、後悔していた。


「勝手にしろ」


嬉しそうな笑みを浮かべる直を直視できずに、歩いて来る老犬に視線を動かした。

よぼよぼの犬はまだフルフルと地面に居て、船に足さえかけていない。


「ありがとう」

「店を直してどうする」


アーチは崩れたまま。

客人に売る為のモノを仕入れる先も無い。

何故なら崩れたこの街に「月夜」はもう訪れない…。


「あんたと同じ…事がしたいんだ」


直は『預かりモノの橋渡し』の事を言っていた。


「いつか、アーチが戻って、人が来る様になったら…したいんだ」

「勝手にしろ。ただし…木は消える。代価も貰えず、願いの木は成長しない。アーチは俺達の力じゃ直せない。客も…来ないだろう…店を直しても無駄だ」


そもそも、願いの木はそう容易く手に入らない。

「預かりモノ」を持ってくる客人も居なければ、成長もしない。

アーチも…恐らくあのままだ。


「願いの…木?」

「あぁ、それが目的だろう?…成長すれば願いが叶う。帰る事も出来るかも知れない。…お前が死ぬ前に成長すれば…だが」


カロンは願いの木が目的なのだと思っていたが、直は困惑していた。

絵本の作者や「預かりモノ」を受け取って来た人達から、聞いた事が無い。


「そうか…知らなかったか」


しかし、知って居ても知らなくても、どちらでも関係は無かった。

手に入りはしないのだから。

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