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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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17

船頭の布を頭から被ると、解れや破けている為、顔は隠れない。

しかし、ぼろ衣を手繰り寄せ、括っただけの衣が隠れ、幾分見目がマシになった気がした。


頭から被るのを諦め、身を隠すのに重点を置き、肩にかけて腹の所でぼろ衣の隙間に端を突っ込んだ。

カロンの風貌が被っただけの時よりも、幾分かマシになった。


彼の方が去ったであろう方向へ、カロンは再度頭を垂れた。

深々と。


そして、船頭を引き継ぐ思いで、布端に刺しゅうされた模様を撫でる。

その一瞬、目の前に自分が見えた。

船頭の思いが残っている。そう、カロンは気が付いた。


模様に触れると、自分に向けられた心配や思いが伝わって来る。

その奥に…誰かに向けた「助けたい」と言う思い。

それが、刺されても大丈夫なはずのカロンを助けた船頭の原動力であった。


船頭はその誰かと友人であるカロンをあの瞬間、重ねてしまった。

いや、客人の過剰な要求を拒否したあの時にも、重ねていた。


「…」


カロンは模様から手を離した。

これは船頭の…個人的な記憶。

今は知るべきではない。


そう思った。

そして、櫂を持ち直し、石橋を少し押すと船体は川の真ん中へ流れた。

ゆっくりと櫂を漕ぎ、街の方へ進みだす。

ランタンに点る灯が、消えかけ慌てて袋から代価を出し、嵌め込む。


船が通るその後ろ。

代価の光が届かない水面が、もこもこと動く。

暗闇が覆うこの場所は、来た時よりも寂しく感じ「こんな思いを船頭はしていたのか…」と、今は姿無き友人を偲んだ。


街にほどなく近い場所をゆっくりと進むカロンの目に、灯りがぽつぽつと見え始めた。

よく見ると元露天商の店主達が数人、歩いている。

少し歩いては木を組み、そこへ火を点していた。

彼らの後ろには一定の距離を空けた、篝火が掲げられている。


カロンが船体を元店主達に近付けると、それに気が付いた1人が頭を下げた。


「どうした…」


声をかけるカロンに答える様に、先を指さす。


「そうか…歩いて逝くのか…」


頷く彼に、カロンは何とも言えない気持ちがする。


彼らは代価を得る方法がない者達の先導を切った。

次の者の為に、松明を持ち川辺に沿って木を組み、篝火を点していたのだった。

カロンは長く続くだろう旅路を、励ましてやる事も手伝う事も出来ず、ただ「そうか…」と呟いた。


そのカロンの言葉に頷き、先へ進んで行く。

そんな彼らを眺め、見送り…また船を漕いで街へ向かう。


彼らの立てた篝火は微かに暗闇を照らし、街への帰路を明るくしてくれていた。

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