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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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80/91

16

カロンはゆっくりと街を流れ去る。

猫は後ろから見ても気持ち良さそうに進行風を受け、船旅を楽しんでいた。


以前よりも暗くなってしまった街を出て、前回同様岩山の間を抜ける。

辺りはより暗くなった様な気がするが、舳先のランタンが明るく前を照らしてくれている。

迷う事も何処かへぶつかる…なんて事もないだろう。


以前の船頭が操る船に、何度も乗ってここを通った。

それでも初めて自らがこの川を渡るに、不安が無い訳では無かった。

しかし、船頭が不安に駆られては船も不安になる。

湧き上がるモノをぐっと堪え、カロンは櫂を動かした。


石の河原が見えた時、そっと石橋に着いた。

船体が橋にコツンと当たると船首像の様に風を受けていた猫が飛び降り、砂利に音もなく着地した。


「にゃーん」


振り返り、カロンにひと鳴きした後、歩き出しす。

猫なりの礼。の様なモノだろう。


カロンは下りず、その背を眺めた。

砂利道を歩く猫。


「お前達も…逝くのだ」


元客人達にも下船を促す。


「あの坂を上ると…分かるだろう」


恐る恐る、船から降りる元客人達に逝く先を指さすと、3人はその言葉に会釈し、歩き出す。


ふと、その道の上に佇む崖の上に、先程の猫を抱く人影が見えた。

カロンは櫂を持ったまま膝を付き、深々と頭を下げた。


ふうぅ…。


彼の方のため息が聞こえた気がした。

申し訳なさが襲ってくる。


彼は街やカロン、船頭に何が起こったのか、全て知って居る。

恐らく…全ての原因も、者達の感情も。


ちりん


すぐ側で鈴の音が聞こえた。

顔を上げようとしたが、上げ切る前に彼の足が見え、カロンは顔を上げるのを躊躇した。


何も言葉が発せない。

神々しさを、肌が痛い程感じている。

カロンの頭が自然と下がり、船の板に頭が付きそうになる程低くなっていく。

櫂を持つ手と足が震え出した。


何か、罰が下るのではないか。


そうカロンは感じた。


ちりん


静寂の中、鈴の音がする。

その後、カロンの上に何か布の様なモノが掛かった。

顔を上げられないまま、視線だけを上にあげる。

布の下から彼の足先が少しだけ見えた。


ちりん


鈴の音が鳴り、彼の足先が見えなくなった。

踵を返し、そのまま去っていく…彼の気配。


ちりん


鈴の音も遠ざかり、聞こえなくなると漸くカロンは頭を上げた。


そして、自分にかけられた布を、手繰り寄せ確かめた。


「…船頭の…」


裾が綻びてはいるが、船頭が纏っていた物だった。

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