暗い足音
クロの首に見慣れない青い雫型がぶら下がっているのを、真奈美は直ぐに気が付いた。
誰も入れないはずの部屋で、新たにクロに着いたネックレス。
「どこで引っ掛けて来たの?」
まさか外に…そう思いながら外そうとしたけれど、色々な所に絡まっていて外れなかった。
クロの首には害はなさそうだと、真奈美は外すのを諦めた。
「クロに似合ってるから…良いか…」
そう言ってクロを撫でる。
「あの人と結婚したら、ずっとクロと一緒よ…だから結婚するわ」
クロのゴロゴロ音が止まり、青いクリッとした目が真奈美の顔を捕らえる。
まるで、本当にそれで良いのかを問う様に。
真奈美と誠は直ぐに籍を入れ、2人と一匹で暮らし始めた。
式は世間体の為にと上げない事は親に拒否された。
が、新婚旅行は誠の仕事を言い訳に行かなかった。
真奈美には平穏が訪れたように思えたが、刻一刻とクロの体は病魔に侵されていた。
ある日、クロの体にしこりが出来ている事に気が付いた。
行きつけの医者に診てもらうと、猫エイズが発症し目に見える形で症状が出始めたのだった。
「無症状のまま生きる子も居ますが…」
医師が暗い宣告をする。
「下顎のこれはリンパ節が腫れているので、ここから…色々な場所で腫れが起こるでしょう…」
病状の説明をされるが、真奈美の頭には入って来ない。
ステージが上がれば…貧血や口内炎、消化器系の症状も…と説明する医師の声が遠くなっていく。
気が付けば、真奈美は待合室の長椅子に寝かされていた。
医師の説明を全て聞いた誠が、会計を終わらせ戻ってくる。
「クロは…?」
「そこに居るよ」
誠が側に置いてあるキャリーを抱え、真奈美の目の前に掲げた。
中にクロの目だけが青く煌めいていた。
大人しいクロ。元気がないだけかもしれないと、真奈美は酷く不安に駆られる。
「帰ろう」
誠がクロのキャリーを抱え、車に乗せた。
そこからは一歩一歩、暗い足音がする様にクロは衰弱して居った。
そして…薄暗い夜明けと共に、クロの命は消えていった。




