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長めのフワフワとした毛が、焚火に照らされて艶めき、くりっとした黄色い目が、カロンを眺めた。
「まさか…」
カロンと元客人達はその猫を見る。
アーチは壊れても、まだゲートとしての役割を放棄していなかった。
元客人の1人が近付くと、猫は元客人を避ける様にぴょんッと軽く飛び、船に乗った。
「にゃおーん」
カロンは周りの元客人達と、猫を見る。
そして、足元にいる直を。
「…」
どうしたものか。
カロンは悩んだ。
船の上に居る猫は、こちらを蔑む様な眼差しで見下ろしてくる。
「…直、お前の身の振りが決まるまではと、元客人達を待たせていたが…無理なようだ」
カロンが蹲ったままの直に告げた。
「俺は船に乗る。一度乗れば…降りる事は出来ない」
涙でグチャグチャの顔をした直が、ようやく顔を上げた。
「すまない」
カロンは櫂を握りしめ、周りに居る元客人達へ告げる。
「望む者は乗れ。ただし3人だ」
元客人達が、我先にと動こうとしたのを先制する。
カロンは足元に見覚えのあるランタンを見つけた。
船頭のランタンだった。
先程、木のやり取りをして手に入れた代価を使い、壊れたランタンを直した。
それを持って舳先のくるっと丸まった場所へ引っ掛ける。
船が少し揺れた。
「これで…本当の完成…だな」
揺れるランタンに船頭を思う。
カロンは感慨深く、目を深く瞑った。
そして、目を開け、振り返る。
元客人達は並んでいる。
前から3人乗る事に決まった。
カロンは代価を受け取り、袋に入れる。
3人目の元客人から代価を受け取るとランタンに入れ、自分も乗り込んだ。
直は、カロンを止める事が出来ず、呆然と彼の行動を見ていた。
「僕の…身の振り…」
自分でさえも考えていなかった、自分の事をカロンが考え、どうするか決めるまで待って居てくれたのだと知って、驚きと少しの喜びが、痛む胸の内から湧くのを感じた。
乗り込んだカロンは、猫と元客人達を乗せた船を漕ぎ始めた。
猫はまるで船首像にでも成ったかの様に、誇らしげな姿勢で座り、残る元客人や陰に隠れている元店主達を見下ろす。
ゆっくりと船は流れ、その動きに沿って猫の毛並みが動き、焚火の灯が薄く船と乗った者達を照らした。
元客人達は船を見送った後、談話をまた始める者と、次の航行には乗るぞと並ぶ者とで別れた。
露天商の店主だった者達は、陰に潜んでいたが、事の成り行きを見てどうすべきか考え始めていた。
直は船が見えなくなった後、カロンの店の前に戻り、奥に見える木の残骸を眺め、崩れ落ちた他の店よりもいくらかマシな台を撫でた。
良い木の感触が手に伝わり、ほんの少し気の所為かも知れなかったが、暖かさを感じた。




