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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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15

長めのフワフワとした毛が、焚火に照らされて艶めき、くりっとした黄色い目が、カロンを眺めた。


「まさか…」


カロンと元客人達はその猫を見る。

アーチは壊れても、まだゲートとしての役割を放棄していなかった。


元客人の1人が近付くと、猫は元客人を避ける様にぴょんッと軽く飛び、船に乗った。


「にゃおーん」


カロンは周りの元客人達と、猫を見る。

そして、足元にいる直を。


「…」


どうしたものか。

カロンは悩んだ。

船の上に居る猫は、こちらを蔑む様な眼差しで見下ろしてくる。


「…直、お前の身の振りが決まるまではと、元客人達を待たせていたが…無理なようだ」


カロンが蹲ったままの直に告げた。


「俺は船に乗る。一度乗れば…降りる事は出来ない」


涙でグチャグチャの顔をした直が、ようやく顔を上げた。


「すまない」


カロンは櫂を握りしめ、周りに居る元客人達へ告げる。


「望む者は乗れ。ただし3人だ」


元客人達が、我先にと動こうとしたのを先制する。


カロンは足元に見覚えのあるランタンを見つけた。

船頭のランタンだった。


先程、木のやり取りをして手に入れた代価を使い、壊れたランタンを直した。

それを持って舳先のくるっと丸まった場所へ引っ掛ける。

船が少し揺れた。


「これで…本当の完成…だな」


揺れるランタンに船頭を思う。

カロンは感慨深く、目を深く瞑った。


そして、目を開け、振り返る。

元客人達は並んでいる。

前から3人乗る事に決まった。


カロンは代価を受け取り、袋に入れる。

3人目の元客人から代価を受け取るとランタンに入れ、自分も乗り込んだ。


直は、カロンを止める事が出来ず、呆然と彼の行動を見ていた。


「僕の…身の振り…」


自分でさえも考えていなかった、自分の事をカロンが考え、どうするか決めるまで待って居てくれたのだと知って、驚きと少しの喜びが、痛む胸の内から湧くのを感じた。


乗り込んだカロンは、猫と元客人達を乗せた船を漕ぎ始めた。

猫はまるで船首像にでも成ったかの様に、誇らしげな姿勢で座り、残る元客人や陰に隠れている元店主達を見下ろす。


ゆっくりと船は流れ、その動きに沿って猫の毛並みが動き、焚火の灯が薄く船と乗った者達を照らした。


元客人達は船を見送った後、談話をまた始める者と、次の航行には乗るぞと並ぶ者とで別れた。

露天商の店主だった者達は、陰に潜んでいたが、事の成り行きを見てどうすべきか考え始めていた。


直は船が見えなくなった後、カロンの店の前に戻り、奥に見える木の残骸を眺め、崩れ落ちた他の店よりもいくらかマシな台を撫でた。

良い木の感触が手に伝わり、ほんの少し気の所為かも知れなかったが、暖かさを感じた。

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