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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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14

「さぁ。触れずに。覗き込め」


カロンは立ち上がった水を指さす。

じり、じりっと足元の崩れたタイルが鳴る。


直はゆっくりと近付く。

本当は怖かった。

また、見たくないモノを見る事になる。

恐怖で足が進まない。


周りが沈黙をもって、直に集中しているのが分かる。

誰もが直を見ている。

どうするのか。

直の行動でどう事態が動くのか。


「とまれ」


声を掛けられて、直の体がびくっとする。

いつの間にか目を瞑っていた。

後一歩、進めば水面に触れられる。


「見る、だけだ」


カロンのかすれた声が、直に強く言い聞かせた。

目の前の水は漆黒で、焚火の揺らめきが反射して居なければ暗闇と見分けが付かない。

しかし、薄っすらと自分の顔が見えた。

その顔は見ている内に姉の顔へと変わる。


「お姉ちゃん」


直は手を伸ばそうとしたが、カロンが櫂で制止させた。


水面に映る美香は、悲しげな顔はしているが、どことなく安らかだった。

解放された顔。

そんな感じだった。


「今は夜がここには居ない。だからより真実を聞く事が出来るだろう」


カロンが櫂を下ろした。


目の前の、水に映る姉を見る。

幼い頃の姉のまま。

背も自分の半分にも満たない子供。


「こんな…こんな子供が…」


自分の経験と姉の経験を重ねて思う。


『ごめんね、直』

「ごめん、お姉ちゃん」

『私、直を置いて逝っちゃう』

「僕こそ…」


会話は出来ていない。姉の思いは映し出されているだけで、残留思念の様なモノ。

正しく思いではあるが、そこに会話性は無い。

が、直は姉と会話する様に答える。


『直…幸せになれんのかな』

「…幸せじゃなかったよ…」

『幸せになって欲しい。幸せって何かは知らんけど…』


悲し気に笑う少女。


「ごめん…」

『直じゃなくて、良かった』

「…」


直の目に涙が浮かんだ。

袖で涙を拭き、前を向くと姉の姿と共に水が引いていた。


「お姉ちゃん!!おねえぇちゃぁん!!」


直が叫ぶが、川はもう水面を静かにしていた。


ちりん


鈴の音がどこからか聞こえた。


ちりん


聞き間違えでは無い。

元客人も、音の出所を探している。


ちりん


可愛らしい首輪をした猫が歩いて来た。

壊れたはずのアーチの下から。


ちりん


歩くたびになる鈴が、どんどん近付いて来る。


ちりん


グレーのフワフワした毛が、時折鈴を隠しながら。

それでも鈴の澄んだ音が辺りに響く。


ちりん


猫がカロンの前まで来て、座った。


「にゃーん」

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