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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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「僕は知人の話を聞いて、その祖父に会わせて貰おうとしました。しかし、彼の祖父はもう亡くなっていました。その代わりにと知人が教えてくれたのは絵本でした。…ここの事が描かれた絵本」


白い蝶と女の子が迷い込んだ先に在った「不思議な露天商の並ぶ街」が描かれた絵本。

初めて見る輝く世界に魅入り、暗闇に足を取られかけるが、最後は白い蝶に導かれて、元に戻る…。

明るい世界に。


「その作者のサイン会に僕は行って、同じ場所へ行った事を話しました。そうすると、話す機会を作っていただけて…作者の方に僕の身に起きた事を話すと、取材で会った人達や作者の話が聞けました」


それで…と直は「預かりモノ」を知った経緯を話した。


「皆、受け取る側の方達でした」


だろうなと、カロンは思う。

死者が生者に渡したいモノを、カロンが預かる。

死者は川を渡り、生者は現世に帰る。


「あれが夢では無かった事で、僕はあなたを恨みました。あなたや周りに居た人達が姉を助けてくれていたら…こんな事になって居なかったと。それで…死ぬ間際に強く願えば持って行けるんじゃないかって」


命を賭けた復讐。


「刺されたとしても、俺は死なないが…」


それに、直は生きている。

カロンと縁が結ばれた所為で来やすくなってはいるが、目の前の直は代価が見えない。

街がこうなるまでは…帰れたのに。


「…こんな事になるとは思っていませんでした」


直は周りにいる元客人や、瓦礫の陰で震えていたり辺りをうろうろと歩く元店主達を見た。


「彼らが…助けるなんて。ほんと、無理ですよね…」


直が力なく笑う。


「だって、あの川の中…」


直は、カロンの腕と自分を包んでくれた布の下から見えた、氾濫した水に触れぬ為に逃げ惑う様や、川に吸い込まれていく彼らの姿を思い出す。


「絶望でした」


思い出した直は微かに震える。


「何か見たのか」

「姉の…影を見たと思います」


美香の思いが黒い影となって、川に混じり直を取り巻いたと言う。

そして聞こえた。

船頭の布越しに、自分への憎悪を喚く姉の声が。


「姉は僕を恨みながら…死んだんです…」


『あんたが居るから』

『あんたがおらんかったら』

『なんで生まれたん!?あんたなんか!』


暗闇の中叫ぶ声が今にもまた聞こえて来そうで、直はぎゅっと縮こまる。


『酷い』

『痛い』

『…さみしい』


影が泣いている様にも、叫んでいる様にも見えた。


「あれは…姉なんです」


カロンはすっと立ち上がり、船に近付いた。

一瞬周りの者達が騒めいたが、船に立てかけている櫂を持っただけだと分かるや否や、注意深い視線をカロンに向けた。


『乗れと言われたら…先に』

『何も言われない間は近寄らない』


自分が先に逝きたい者程、じっとカロンを見つめた。

直だけが、さっきの様な事が起こらないかと冷や冷やしながら、カロンを見守っている。


「直」


カロンが手招きした。

ボロボロの服を肩と腰で結び、長い手足は櫂よりも細く、頭髪の量とは比例した白い髭の長さだけが焚火で浮かび上がっていた。

まるで火の玉を逆さにしたみたいだな。と、思った。


「もっと、奥を覗いてみろ」


カロンが水面を櫂で軽く叩いた。


ぴちょん…ぴちょん


水面に輪ができ始め、重なり合う。

モゴモゴとそれに合わせて水が動いた。


「お前が見たのは、憎しみと哀しみ…ただの彼女の『持ち物』だ」


直の前にある水面から、水が立ち上げり始める。

それの横にカロンは立った。


「だが、奥底にある彼女の『思い』を知らない」

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