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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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10

直の目からポロポロと涙が零れ落ちた。

さっきもあんなに泣いて、体中の水分が全て無くなってしまったんではないか、そう思えるくらいに泣き、涸れ果てたはずだった。

なのに。


両目からは涙が止めどなく流れ、胸が苦しい。


「…ご…めん…な…ざい…」


掠れた声を振り絞った。

取り返しのつかない事を、彼はしたと思った。

謝っても意味は無いが、それでも言葉は口をついて出てくる。


「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」


両手で顔を覆いながら、繰り返し繰り返し出てくる謝罪の言葉。


それに気が付いた元客人達が、振り返り2人を見る。

しかし、誰も寄っては来なかった。

誰もが、そっとしておく事を選び、自分達の会話を続けている振りをした。

中には少し離れ、声や姿を「見てないよ」とアピールを始める者もいた。


「もう、済んだ事だ」


カロンが火を見ながら、答えた。

その声に、直は更に嗚咽を上げる。


誰も彼を慰めはしない。

ただ、泣くまま泣かせるまま、落ち着くのを待って居る。

声が次第に小さくなる。


「僕の…話をきいてくれますか」


ぽそっと直が声をかけた。

それに対し、カロンは黙って頷いた。


あの…迷い子としてここに来た時、自分と姉は川に落ち、意識を失ったのだ言う。

そして、直が病室で気が付いた時、姉の美香は息を引き取っていた。

しかし、両親は自分の側に居て、他人である医者と看護師だけが姉の側に立って居た。


「僕が姉に駆け寄ろうとした時、母は必死に押さえ込みました。近くに行くと僕まで逝ってしまう。と、そう叫んで…」


病室が騒然としたのは無理もなかった。

母親が娘に対して名前を呼ばないどころか、遺体となったその時にも、何の感慨も持たず弟の事ばかりを気遣っていた。

父親は直の無事を喜んだ後、母親に抱きしめられている弟に姉の不幸を告げ、席を立った。


「父は姉の顔を撫でた後、泣いていましたが…僕は…」


2人が川に落ちた日、姉が些細な切っ掛けで母に殴られた。

原因は…弟よりもテストの点が良かったか、弟よりも早く帰って来てしまったからか、覚えていない。

いつも通り理不尽な扱いを受け、美香は衝動的に家を飛び出した。


「姉が飛び出しても、母は探しませんでした。それを知った…父も」


それなのに病室で涙する父親に、直は不信感を抱いたと言う。


「もしも、父が探しに行っていたら…そう思いました」

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