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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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9

船に乗り損ねていた元店主達は、沈みゆく同胞達をただ眺めているカロンを見た。

少なくなった元客人達も、ただ茫然と立ち竦み、どう決断すべきか…と、手をこまねいていた。


「客人達…いや、元客人達よ」


カロンが声をかける。


「今はまだ船は出せぬ、が、代価を持つ皆はいつか俺が渡す…約束する。なので、少々時間をくれないか」


その言葉に、元客人達は少し安心した様にゆっくりと頷き、動き出す。

川辺の瓦礫を拾い一カ所へ集めたり、囲いを作ったりと、自分達の場を作り始めた。


カロンはゆっくりと呆然としている青年、直の元へ来た。

そして、少し離れた位置に座る。

腕を伸ばして触れるか触れないかの位置。

かつて、少女がした様に。


「…」


直は何も言わなかった。

拒絶も罵倒も後悔も謝罪も。

何も口にしない。


一人の元客人が腕一杯に瓦礫を抱え、2人の目も前に来た。

ガラガラと音を立てながら、それらを下におろすと囲いを組み始めた。


囲いを組み終わると、立ち去った。

そしてまた木の枝を両手いっぱいに抱え戻って来た。

それをカロンと直は黙って見ていた。


枝は露店の裏の、木々が崩れた残骸だった。

それを集めては所々に作った囲いの中に置いていく。


ちょんちょん、とカロンは突っつかれた。

見ると平らな何かの上に、細かい木くずや木の皮が乗っていた。


「それが…どうした」


カロンの言葉に元客人はあたふたと動きながら、代価を差し出した。


木くずと木の皮はカロンの「木」だった。

カロンは代価を受け取った。

すると、元客人がほっとした様に頷き、それを持って行くと次々に光が灯り始めた。


櫂の元ならば、カロン以外が触れば「火が灯る」。


「凄い客人も居たもんだな…」


カロンは少し微笑んだ。


ゆらゆらと燃える火が、2人の前にも置かれ、明るくなった。

以前の街とは比べ物にならない小さな灯り達だったが、気持ちを落ち着かせるには十分な働きをしてくれた。


直は炎に照らされた地面に、何かが落ちているのを見つけた。

拾い上げると、サルの様な生き物の形をしている人形だった。


「サル?…」


汚れていたそれを指で拭くと、下から緑色が見えた。


さっきの元客人が慌てて駆けて来た。

手を差し出し、直に「返してくれ」と身振り手振りしてくる。


「あ…あぁ…」


恐る恐る直はそれを手の上に乗せてやった。


頻りにお辞儀を繰り返し、ぎゅっと大事そうに握りしめた後、元客人は他の元客人達の集まる方へ歩いて行く。


「大事なモノなんだろう…」


去っていく後姿を見送る直に、カロンが声をかけた。


「返してやってくれて、ありがとう…直」

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