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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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7

船頭の船とは違う形の、出来上がった自分の船を眺めながらカロンは思う。

失った日々を。

露店主達や船頭と軽口を叩き合った日々。

大切だったのかも知れない…と。


一緒に珈琲を飲んだ、川辺のひと時を思い出す。

そして、最後に直に刺されながらも、自らの布でカロンと直を守った船頭。

布に包まれた瞬間に「今度は間に合った」と、漏らした船頭の言葉。


「友人…であったのか…」


船頭との関係をカロンはそう、位置付ける事にした。

しかし、もう会う事は無い。

友人と認めるには遅すぎた。

悲しみに似た感情がカロンを襲う。


「はぁ…」


ため息を付いた。

いくらか落ち着きを取り戻したが、目の前の船にカロンはまだ乗り込まなかった。

カロンは代価が無ければ店から出られなかった。

その経験が、乗り込むのを余計に躊躇させる。


一度乗り込んでしまえば、もう降りられない。

船頭がそうであった様に、船頭は代価が有っても…降りられない。

その制約を無視して降りれば…あの惨事がまた起こるとしたら、次は無いだろう。


船頭の代わりはカロンがするが、カロンの交代は今の所居ない。

「預かりモノ」を請け負える者も居なければ、託す者も訪れる事が無い。

…木を育てる手段も無いのだ。


乗り込む時期は、考えなければならなかった。


そして、カロンが船頭として役目を負うても、街が崩れ去った今、代価を得る手段がない元露天商の店主達と直は川を渡れない。


川を渡れない者達はここに留まり続けるか、川を辿って歩いていくしかないだろう。

生半可な距離ではない。

途方もない時間がかかるに違いなかった。


それは元露天商の店主達にとっては、必要な禊や償いになるのかも知れない。

だが、直は…?

その苦を受けるに値するのだろうか。

この街を破壊するきっかけではあっても、元凶は…?


この問題を解決するまでは、乗り込めない。

殊更直に関しては、責任をカロンは感じていた。


それに、アーチは壊れている。

アーチの仕組みをカロンは知らないが、あちらに帰れないのだから、こちらに川を渡る者達が来るのにも猶予があるのではないかと、カロンは考えていた。


船頭も知らないアーチの仕組み。

知って居るのは冥界の王ただ一人。


なので、いつ船頭の役目を再開しなければならないのか分からない。

曖昧な状態…だからこそ。


船の周りに集まっている元店主達。

そこかしこに座り込みだした元客人。


そして…。

店の前で泣きはらした目をして、呆然としている直。


「できる事を…一つずつ…」


そう、カロンは呟いた。

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