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船頭の船とは違う形の、出来上がった自分の船を眺めながらカロンは思う。
失った日々を。
露店主達や船頭と軽口を叩き合った日々。
大切だったのかも知れない…と。
一緒に珈琲を飲んだ、川辺のひと時を思い出す。
そして、最後に直に刺されながらも、自らの布でカロンと直を守った船頭。
布に包まれた瞬間に「今度は間に合った」と、漏らした船頭の言葉。
「友人…であったのか…」
船頭との関係をカロンはそう、位置付ける事にした。
しかし、もう会う事は無い。
友人と認めるには遅すぎた。
悲しみに似た感情がカロンを襲う。
「はぁ…」
ため息を付いた。
いくらか落ち着きを取り戻したが、目の前の船にカロンはまだ乗り込まなかった。
カロンは代価が無ければ店から出られなかった。
その経験が、乗り込むのを余計に躊躇させる。
一度乗り込んでしまえば、もう降りられない。
船頭がそうであった様に、船頭は代価が有っても…降りられない。
その制約を無視して降りれば…あの惨事がまた起こるとしたら、次は無いだろう。
船頭の代わりはカロンがするが、カロンの交代は今の所居ない。
「預かりモノ」を請け負える者も居なければ、託す者も訪れる事が無い。
…木を育てる手段も無いのだ。
乗り込む時期は、考えなければならなかった。
そして、カロンが船頭として役目を負うても、街が崩れ去った今、代価を得る手段がない元露天商の店主達と直は川を渡れない。
川を渡れない者達はここに留まり続けるか、川を辿って歩いていくしかないだろう。
生半可な距離ではない。
途方もない時間がかかるに違いなかった。
それは元露天商の店主達にとっては、必要な禊や償いになるのかも知れない。
だが、直は…?
その苦を受けるに値するのだろうか。
この街を破壊するきっかけではあっても、元凶は…?
この問題を解決するまでは、乗り込めない。
殊更直に関しては、責任をカロンは感じていた。
それに、アーチは壊れている。
アーチの仕組みをカロンは知らないが、あちらに帰れないのだから、こちらに川を渡る者達が来るのにも猶予があるのではないかと、カロンは考えていた。
船頭も知らないアーチの仕組み。
知って居るのは冥界の王ただ一人。
なので、いつ船頭の役目を再開しなければならないのか分からない。
曖昧な状態…だからこそ。
船の周りに集まっている元店主達。
そこかしこに座り込みだした元客人。
そして…。
店の前で泣きはらした目をして、呆然としている直。
「できる事を…一つずつ…」
そう、カロンは呟いた。




