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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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6

カロンは代価が詰まった袋を、腰の紐に括りつけた。

そして木の根元に立つと、幹に両手で触れた。


暖かな流れが、掌に伝わる。

カロンの『本当の願い』を叶えるには、木が若すぎた。

『本当の願いを叶える時』には、まだまだ足りなかった。

が、今の願いに答えるには十分な力を持っている。


美しい街を、取り戻す事が出来なくても、船頭のおかげで役目が果たせる。


「木よ…叶えたまえ…」


カロンは目を閉じ願う。

暖かな風が木から流れ、懐かしい気持ちと香りに包まれた。


木が皮を脱ぎ、身を削り、少しずつ…少しずつ形を成していく。

カロンが目を開けると、手には櫂が握られていた。


それを川のほとりに置き、また店に戻ると獣の革が入った箱を引き摺り、持ってきた。

櫂の周りに元露店主達や元客人が集まっていたが、それを追いやり横に箱を置くと、蓋を開けた。


元客人の1人が元露天商達に止められるのを振り切り、櫂に手を伸ばした。

しかし触れた瞬間、炎が上がり元客人を包み込んだ。


その火の勢いに集まっていた者達がたじろいだが、元客人と炎が消えるとまた側に集まって来る。

今度は大人しく、カロンのしている事を黙って見ていた。


カロンは箱から全ての革を取り出し並べた。

かなりの量になっていたんだなと、全貌を見て思う。

一枚一枚が上等な革だった。


カロンは船頭から受け取っては直ぐに箱に仕舞い、増えていく事だけを喜んできた。

質に対する感謝を一言も伝えなかった。

その事をカロンは少し後悔した。


一枚一枚重ね、代価を革に当てる。

革は代価を繋ぎに、次々と張り合わされて行く。


革が一枚一枚繋がる毎に、カロンは2人の足跡を辿っている様な…そんな気分を感じた。

自身と船頭の、歩いて来た…過ごしてきた年月を一歩一歩。

船頭が残してくれた代価を、一つ一つ縫い目に合わせて沿わせて行く。


全てをつなぎ合わせた後、船の形を作り始める。

一つ代価を投げると、船首が持ち上がり、舳先がくるっと丸まった。


もう一つ代価を投げた。

すると船底部分が丸く反り、船体全体を形作る。


もう一つ代価を投げた。

船尾が持ち上がり、櫂を通す場所が四角く空いた。


もう一つ代価を投げた。

船体の真ん中が平らに張られ、櫂の前に立つ為の…台の部分が出来上がった。


カロンの立派な船が出来上がった。


もう一つ代価を投げる。

船体は川へ移動し、浮かんだ。


「…これからは、俺が船頭だ…」

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