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「お前はもう…戻れない」
カロンは青年に告げた。
キョトンとする彼に、アーチを指さす。
「お前が…した事で、アーチは壊れた。あれはここと現世を繋ぐゲートだ」
今はもう崩れ落ち、アーチの体は成していない。
ただ、丸くなった上が一部残った柱が立って居るだけで、崩れた物体が柱の元で瓦礫の山と化している。
ゲートとも呼べぬ代物。
「そんな…」
四つん這いの姿勢のまま、愕然とアーチだった物を眺める青年の横顔を、カロンは眺めて思い出した。
「お前…直…か」
以前に迷い子としてここへ来た直。
カロンが川に落ちかけた彼を助けた代わりに、姉が川に落ち、現世へ送り返した、あの時の少年。
「…縁か…」
「預かりモノ」を持っている訳でも、送られる者でもない彼が、どうしてここへ来られたのか。
そして何故、カロンの名を知って居たのか。
不思議に思ったが…それならば話が通る。
カロンが触れてしまった事で、繋がりが出来てしまったのだ。
咄嗟の行動が、縁を結ぶ事は多々あるものの、大抵は最期にしかここへは来なかった。
だから、大丈夫だとあの時思ったのに…。
「俺が…この惨事を引き起こしたのも同然…だな」
直から視線を外し、遠くを見る。
やらなければならない事は解っている。
…自分の所為で…自分が元凶ならば…。
余計…しなければならない。
必要なモノがあるだけだ。
街を立て直す事は出来ない。
それでも…ここは通り道。
新たに渡る者が、いつか訪れてしまう。
必要なモノが集まるかどうかだ。と、カロンは思う。
全てが壊れた今、絶望的だったがそれでも。
光を放つ代価。
それだけが確かに手の中にある。
「後は…」
辺りを見渡した先に、見えた自身の店。
その後ろ側に、聳える影が見えた。
見失っていた希望。
其処らに蠢く元露店主達にも、突然の事に動けず残された元客人達にもできない。
カロンだけが、出来る事。
慟哭にくれる直をその場に置いて、カロンは木の元へ急いだ。
店もボロボロだったが、裏に生えている木は小枝が折れているものの、しっかりと残り毅然と立って居た。
そして、振り返った先の…店内に見えた箱。
船頭がいつも土産にくれた獣の革が入っている。
「…あいつに助けられてばかりだな…」
手の中の袋を握りしめた。




