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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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66/91

2

自分の脇に居る子供を押し退けて、青年はカロンに向かって刃物を突き出した。

が、刃はカロンに届く事は無かった。


勢いに負けて閉じた目を、カロンは開けた。

自身には何も起きていない。


「?」


子供はタイルの道にこけて、両膝と手のひらを付いていた。


「大丈…夫…か…?」


子供に声を掛けようとした瞬間、自分に覆いかぶさっている黒い物体に気が付いた。

その脇に青年はナイフを突き立てている。

黒い物体は船頭だった。


「おい!どうして!!」


船頭の肩を持ち、力なくずり落ちる船頭の体を立たせようとするが、重すぎて船頭はタイルの床に崩れた。


ひゅおおおおおおおお…


街に吹かないはずの風が、アーチの向こうから音を立て入って来る。

露天商の店主達も客人も「何か」が起こった事を恐怖として感じ取った。


ガタガタと露店の屋根がなり始め、見る見るうちに空が渦巻いていく。

青と紫の空が異様な程に渦を巻き始め、川も波打ち始めた。


船頭を掴んでいるカロンも立って居られず、その場にしゃがみ込む。

嵐の様な風が吹き、青年も子供も身動きが取れないで居た。


「あ…」


カロンが持っていたはずの「預かりモノ」が空を舞う。


「駄目だ!」


咄嗟に手を伸ばし「預かりモノ」を掴もうとするが、空を掻いた。


「きぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇぇ!!」


子供が金切り声を上げた。

そして同時に子供が影になっていく。


「しまった…」


カロンは吹き荒ぶ風に揉まれながら、愕然とした。

…失敗。

「預かりモノ」の紛失。


金切り声を上げる子供はもう見る影も無く、真っ黒な塊に変わってしまった。

そして、悲痛な悲鳴を上げながら伸びあがり膨れ上がり…そしてまた縮む。

それを繰り返し、どんどんと大きくなっていく。


川が氾濫を始め、水がせり上がっていく。

タイルの道を水が這い、露店の前まで迫って来た。

露天商の店主達がこぞって自身の店の台に乗り始め、客人達は慌てふためきタイルの道を右往左往する。

水に触れたくないのだ。


露天商の店主達や客人…全ての者は水に触れると飲み込まれてしまう。

船頭以外は。


カロンの足元にも水が迫って来た。

側に居る青年を水から離す様に引っ張ると、彼の手からナイフが離れ、カロンはぐっと2人を掴み、自身に引き寄せた。


「大丈夫だ…」


船頭がそう言ってふわりと纏っていた布を広げ、カロンと青年を包んだ。

船頭の腕の隙間から、舞い上がる露店と店主達が見えた。

川に流され消えていく客人達も。


全てを食らい尽くすかの様に、空が、川が蠢く。

金切り声を上げていた黒い塊に変化した子供も、立ち上る水と風と一緒に縦に伸び、三本目の竜巻として猛威を振るっていた。


カロンの傍らに居る青年が酷く震えているのが、振動で伝わる。

何やら呟いていたが、カロンには聞こえなかった。


ただ、色とりどりの宝石と金色に輝いていたアーチが、崩れ去る音が聞こえていた。

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