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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
不思議な露天商

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1

カロンは船頭が漕ぐ船が、見えなくなるまで眺めた。

涙を流す彼女の悲しみが、少しでも川に溶け、安らかな面持ちで審判に向き合える事を祈って。


船頭が居なくなった川は穏やかに、街も普段と変わらない。

さざめき合い、笑い合う。


しかし、その中にも先程の客人の様に、無茶を強いる者も居る。

あんなに代価を持っていた客人。

余程の徳を積んできた客人に思われたが。


得を積んだ者でもあの様な傍若無人な振る舞いをするものなのだな…。と、カロンは呆れた。

しかし、徳を積むにあたり自己を抑制してきた者が、箍が外れ「そう」なるのは珍しくない。


適度な自制と適度な放縦。

意識的でも無意識でも、それが出来ている者はそもそもここには留まらない。


店を出てしまった事で、持っていた代価は消えたが、ここにぼうっといる訳にもいかず、カロンは立ち上がり衣服を整えた。

アーチの下に子供が立って居るのが見えた。


代価の在処が見えない。故に「客」だと思った。

子供がまっすぐカロンの店の方へ歩いて来るのも相まって、確信に変わる。


子供が店の前に立つ。

キョロキョロと、辺りを見回しているのを少し離れた所にいるカロンは見た。


露店主のいない店。

自分が探されている事が分かる。


「預かりモノ」を預かり受けるだけならば、店の外でも良いかと子供に声をかけた。


「どうぞ」


子供は手の中から預かりモノを差し出す。

いつも通り、渡す相手が物を通じて見える。


「必ず渡そう」


カロンは子供にそう告げた。

川に船頭の船が着いたのが見えた。


いつも通り、子供はあの船に乗り川を流れるのだろう。

そしてそれを、露天商の店主や客人が見送る…。


その筈だった。


「…カロン…さん」


子供の横に青年が立って居た。

代価は見えない。

彼も客なのだろうかと、店に入りかけたカロンが踵を返して彼に向き合った。

彼はやや下を向いていて、顔が見えなかった。


「あなたが…姉を見捨てたから…」


彼は何かを握りしめていた。

ここでは持てないはずの。

ここには無いはずの物を持っていた。


「あなたの所為で…」


カロンはそう言って上を向く彼の顔を見た。

何処かで、見た様な…?


「カロン!!」


船頭の声が街の喧騒を割いて、カロンの耳に飛び込んで来た。

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