思えども…
「ねぇ…」
タイルの道に胡坐をかいて座るカロンの、後ろから声がした。
「ありがとうね。子犬達を守ってくれて」
後ろで手を組み、女性が立って居た。
「いや…俺は…無理な事を無理と言っただけだ…」
カロンは振り向き、首を微かに振った。
女性は軽やかな足取りで、船頭の船に乗った。
「それでも、あの子達は帰れた」
彼女は微笑んだ。
悲しげな顔ながらも、微笑んだ彼女をカロンは美しいと思った。
「香澄の事も…みーこの事も、卓也さんや真奈美さん達に任せるしかないのよね…」
ぽそっと独り言を言う。
「いいのか?」
船頭が彼女に声をかける。
「えぇ…」
船から少し身を乗り出し、川を眺める彼女の目から涙が溢れた。
「さようなら…香澄。さようなら…みーこ…」
ゆっくりと船頭は船を漕ぎだした。
流れる水面には恵の見たい人達が見えた。
しかし、船の揺れにより、見えては消えて浮かんではかき消されを繰り返す。
「一緒に…居たかった」
溢れる涙は川へと落ち、人達の姿を揺らしては吸い込まれ、悲しみが、恵から川へ落ちていく。
香澄は、居ない恵に気付かず、時を過ごしていくのだろうか。
いつかは、思い出して泣いてくれるだろうか。
その時側に居るのは…自分ではない…。
「香澄…香澄…」
みーこは真奈美さんに引き取られ、あの猫の家でまた猫達と暮らしていく。
別れを繰り返させてしまった。
何度目の別れか…それだけが、申し訳ない。
「みーこ…元気でね」
川に手を伸ばすが、それも揺れでかき消されて触れる事無く消えた。
薄茶色の毛玉が浮かび上がる…きゃろんだ。
可愛らしく卓也の腕の中で尻尾を振って、香澄を出迎えていた。
香澄ときゃろんと卓也の、川の字で寝転ぶ風景を見て、恵は笑って泣いた。
「めぐみ」
川の中の香澄の口が、そう動いた様な気がして、余計に涙が溢れた。
船頭は何も言わず、ゆっくりと櫂を動かす。
後ろの彼女の向こうに見えていた、カロンの姿も遠く微かになっていく。
客人と向かい合う彼の姿を見た時、駆け付けてやりたいと思った。
…駆け付けて客人に立ちはだかってやりたかった。
しかし、船から降りてはならない船頭に、駆け付けた所で何が出来ただろうとも考える。
物悲しい気持ちが船を包み、船頭は代価の灯り一つを点しながら、静かに先を流れて行った。




