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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
薄茶色の宝物

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63/91

決断

「そうそれで…」


真奈美はリビングで紅茶の入ったカップを、口元へ持って行く。

外のテラスには降り注ぐ陽を、一身に浴びて煌めく花達が風に揺れていた。


「ええ、昨日香澄さんから子犬は諦めると連絡があったわ」


道子も真奈美に倣い、紅茶を飲む。


香澄は道子の家で戯れる子犬達を見て、可愛いと思う反面、子犬達を約束した人達に引き渡すまでの間、付きっ切りになる事できゃろんが寂しい思いをするかもしれない事や、きゃろん自身を出産時に亡くすリスクを考えると怖くなったのだと連絡をしてきた。


「あなた、分かってたでしょう」


道子が真奈美に目線をやる。

彼女は唇を少し上げた。


「不幸な子は無くしたいけれど、幸せな子は増やしたいものよ」


それでも…と真奈美は言う。


「命を産ませない選択も後戻りできないけれど、命が生れてからも後戻りは出来ないものね」


真奈美は揺れる紅茶を眺め、顔を上げて部屋に居る猫達を見る。


「それに…」


一匹の猫が真奈美の側に寄る。


「彼女…恵さんの事を…」

「そうね…」


真奈美の家でも、道子の家でも、香澄は恵と一緒に居る様な振る舞いをしていた。

しかし、2人の家に来たのは香澄一人。

その事を、2人は彼女に告げなかった。


「卓也さんが連絡をくれて…本当に良かったわね」

「そうね、じゃなかったら彼女を追い詰めてしまっていたかも知れない」

「…香澄さんが真面目で命に向き合う人だったから、事故の記憶が無くなっていたとしても、そう考えて諦めてくれると思ったの」

「…今ある命と向き合うって?」

「ええ。子犬に…新しい命は素晴らしいけれど、それに逃げないで欲しい。…動物は人間に振り回されてしまうのよ…良くも悪くも…ね」


真奈美の声に耳を傾けながら、道子はくいっと紅茶を飲み干した。


「…耳が…痛いわ」


空になったカップをソーサーの上に置き、道子はため息を付いた。


「宝物は…目の前にあるモノ。そう思って大事にして欲しい…」


真奈美は側に寄って来た猫を撫でた。


「良い運命…縁だけがあるなら、世の中幸せなのだけれど…」


慣れた様子で真奈美の手を舐め、ゴロゴロと喉を鳴らしている猫を見て、道子がぼやいた。


「そうね…」


道子の言葉に、真奈美はかつての愛猫…クロを思う。

撫でられている猫の首輪には「みーこ」と書かれた銀プレートが付いていた。

ポメラニアンは産んで「2〜3匹」なんです。

だから、…道子は色々な意味で、耳が痛いんです。


そして、ポメラニアンは一匹でも生まれる事はありますが、複数生まれる事を想定した方が良い+真奈美は猫飼いなので「複数生まれる」を前提の発言を猫の家での会話でさせています。


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