子犬達
香澄と恵が訪ねた先で、迎えてくれたのは野村道子と言う、真奈美よりも少し年上か、同じくらいかの女性だった。
「初めまして。あなたが香澄さん、ね?」
「はい、初めまして」
「真奈美さんから聞いているわ。さ、どうぞ」
「失礼します」
玄関に入ると、部屋に続く廊下に写真が飾られていた。
白いポメラニアンときゃろんに似た茶色いポメラニアン。
そして、その子共達なのか白と茶色の混じった子犬達。
「この白い子はリック…私の愛犬。子犬達はリックの子達よ」
写真に目を取られる香澄に気付き、道子は写真を指さす。
茶色い子はリックの為のお嫁さんで、自分ちの子ではないとも。
「私もね、リックの子共が欲しくて…」
薄く微笑みながら呟いた。
案内された部屋には、その写真の時よりも少し大きくなった子犬達が、寝そべりじゃれ合っていたが、客人と道子に気が付き、尻尾を振って寄って来た。
「はいはい…」
笑顔で子犬達を撫でる道子と香澄は、ちょっとした間座る事も出来ず、子犬達の相手をした。
香澄は白と茶色の混じった五匹の子犬達にもみくちゃになる。
「結構激しいですね」
フワフワした柔らかな毛に戯れながら、道子に笑顔を向けたが、ふと、ここには居ない親犬の事を思った。
「お嫁さんは飼い主さんの所よ」
そして、リックは虹の橋の袂へ行ったと言葉を続ける。
先月の事だった。
散歩中のリックと娘の所へ車に当たったバイクが、そのままの勢いで突っ込んできたのだと言う。
「娘は軽いけがで済んだけれど、リックは巻き込まれて…」
道子の顔に暗い影が帯びる。
その事故では亡くなった人も居るのだとか…。
それを聞いた香澄は、最近起きた事故の話を思い出したが…ハッキリとはしなかった。
「それは…」
香澄は言葉が続かなかった。
足元に戯れる子犬達を見て、リックが残した子犬達が道子の支えなのだと思えた。
リックが居なくなっても。
「でもね、リックはこの子達を残してくれたけれど、この子達はリックじゃないわ」
香澄の子犬達を撫でる手がビクッとして止まる。
「私はこの子達が居てくれて良かった。それは事実。だけど、リックがいたなら…と考えない日は無いの」
椅子に座り用意されたお茶を飲みながら、子犬を見る。
確かに結果的には良かった。
それでも、たった一つの宝物が目の前に居るならば、その子に愛情を命一杯注ぐ事が出来る事が羨ましくもあると話す道子に、香澄は自分の中に疑問が浮かんだのを感じた。
「きゃろんが居て、子犬が居て、幸せだろうけれど…」
両方をちゃんと同じように愛せるのだろうか。と。
「本当に望むのなら、適性な大きさになる間、お互いの親睦を深めていきましょう」
道子は香澄に微笑む。
香澄はリックの子供達が、薄茶色のシミを付けた骨のおもちゃで遊んでいるのを、ぼんやりと眺めた。




