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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
青い雫のネックレス

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1人で塞ぐ逃げ道

真奈美はクロを自分の狭い世界に閉じ込めたと後悔していた。

広い世界で生きた方がクロの為かも知れないと。

しかし、もう二度と外に出す事は出来なかった。


帰ってすぐにクロを見つけられない事が恐ろしい。

姿が見えない事が…怖い。


彼女は鈴を一段と大きなモノに変え、どこに居ても分かるようにした。

クロを撫で、ゴロゴロとした喉の音に安心し、夜寝る時に顔の近くに居るのを確かめる。

何度か怖い夢を見ては、叫び起きクロ自身をびっくりさせてしまう。


クロの怪我が治る頃、落ちていた食欲も戻ったが、体つきは痩せたままだった。

毛の艶も元には戻っていない。

真奈美は不安に駆られるが、良いごはんと排泄の管理を清潔にする事しかできる事は無かった。


見合いをした跡取りの男…誠は、気の良い人間だった。

彼もまた、跡取りとしての重圧を受けて育っていた。

しかし、真奈美にはもうそんな事どうでも良かった。


優しい一面が両親にもあると、思っていた。

一度だけでも昔、幼かった頃に連れて行ってもらえた縁日の記憶が、真奈美の記憶に「やさしさ」として残っていたから。

でも、それも事実は違った。


人混みが怖くなった原因がその時にある事を彼女は分かっていなかった。

母親に初めて縁日に連れて行ってもらえたあの日。

母親と逸れたあの日。

真奈美の母は不倫相手と逢瀬をしていた。


自分が家に戻ってからの両親の喧嘩が、日に日に激しくなり、ある夜に父親の叫びが耳に入ってきた。


「お前が真奈美を置いて不倫なんかしたからその影響だ」

と。


「私だけを責めるの!?あなたこそあの女と会っていた癖に!」


両親の罵り合う言葉を、眠るクロの側で聞く。


「どうせ…結婚しても…この人もあぁなるかも知れない。両親の様に」


そう、考える様になっていた。

誠が優しく接しても、そうでなくなった未来を考える。

迷った暗い神社の中で、色々な人から押されて転んだ記憶や、うるさい声が頭をガンガンと打つ。


「真奈美さん…辛いなら働かなくても良いですよ」


あまりにも顔色の悪くなっていく真奈美を見かねた誠が、そう提案した。


「結婚したら僕が頑張って働きますから…」


クロを探していた頃よりも、細く骨ばった自分の手が黒い毛並みを撫でていた時、どれほど自分も弱っているのかを真奈美は知った。

そして、全てを投げ捨ててクロと過ごす道に逃げた。

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