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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
薄茶色の宝物

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59/91

愛と恋

香澄はその日に契約書を交わした。

恵には言っていなかったが、泊まる度に飼われている猫のみーこと過ごす彼女を、羨ましく思っていた。


「いつかは…」そう考えて、飼っても居ないのに独り暮らしの家もペット可の物件を選んでいたし、猫の世話の仕方、犬の世話の仕方をネットや友人宅にいる子達で密やかに勉強してきた。

それでも「実際の世話とは違うかもしれない」と考え、二の足を踏んで来た。


評判の良い動物病院を探した事もある。

保護猫や保護犬を探しては、どの子も可愛く…可哀想に思え、悩みに悩み疲れ果てた末に諦めたりもしてきた。


「命を預かり世話をする」


その重みを、香澄は分かっているつもりだった。

ずっと続く生活に関する出費も、何かあった時の治療費も。

自分がいなくなってしまった時の事も、考えて考えて、ずっと手が出せなかった。

だけど…。


前の前に居る、きゃろん。

契約の後、一週間後に連れて帰れた、きゃろん。

家に連れて帰るその日まで…それまで、ずっと寝ても覚めてもきゃろんの事を考えた。


「可愛い…」


薄茶色のフワフワの毛を撫でる。


「…良かったね。幸せだね」


恵が横で目を細める。


「うん」


床に寝転ぶきゃろんに、香澄は寄り添いながら尻尾の揺れを眺めた。

近くの獣医は口コミや、恵の言う通り良い人だった。

ワクチンや取り扱いの保険の話もちゃんとしてくれ、安心できる環境で良かったと心底思った。


「彼氏には言ったの?」

「うん、犬好きだから凄い来たがってる。けど、慣れるまでは来るの断ってる」

「そっか、いきなりは負担になるかも知れないもんね」

「うん、きゃろんに負担かけたくないし…」

「香澄、きゃろんに夢中だからね」


恵が笑う。

香澄自身も、それは痛感していた。

彼氏の事はもちろん好きだったが、きゃろんが合わないならきゃろんを優先する。

そう思えたからこそ、きゃろんに家族になって貰った。


「後は…避妊手術をするか…どうか…」

「みーこはしてるよ。病気の予防もあるし…」


出産を予定していない子は、将来に罹るかも知れない病気の予防にした方が良いと言われている。

それは香澄も分かっている。

しかし…。


「…きゃろんの子供…」


目の前のきゃろんを失いたくない。

居なくなることが怖い。

出産も命がけだが…。


「この子を亡くすのが怖いの…」

「分かるよ」

「残したい気持ちもあるの…」

「うん」

「…同じ種類じゃ…嫌なの」

「うん。血がつながってて欲しいのね?」


生き物を飼う事、それは命の最期も見届ける事。

香澄は「いつか」を考えてしまう。

人間に対しても、動物に対しても。


「香澄…、真奈美さんに相談してみる?」

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