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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
薄茶色の宝物

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57/91

襲来する街

「わふん」

「わふうぅん」


アーチの下から白のまんまるとしたモノが二つ出て来た。


「わうん」

「わおん」

「きゅんっ」


それに続いて、薄茶色いまんまるとしたモノが三つ。

いつもは何が現れても興味のない、客人や露天商の店主達がそちらを向く。

店の台に肘を付いていたカロンも、それに倣って目を向けると、そのまんまるとしたモノ達は一直線に店に向かっているようで、どんどん近付いて来た。


「あぁ…」


カロンはそれの正体にすぐさま気が付いた。

白に薄茶色が混じった毛並みの小さな毛玉。

一瞬そう見える、まんまるな五つのモノは、子犬だった。


わっふわっふと口々に良いながら、店の前まで走って来る。

まるで流星の様に走る子犬達に、街のモノ全てが目を奪われた。


「お待ちしておりました。皆さま」


店先に並ぶ五匹に、台の上からカロンが声をかける。

短めの尻尾を振り振りする毛玉達に、いつもは仏頂面のカロンも頬が綻ぶ。


「わんっ」


一匹が脚を台にかけようとしては爪が当たる。

その一匹に我先にと乗り、他の子犬達が団子の様にもぞもぞと行ったり来たりした。


「リック様からのお品物をお渡しいたします」


白い茶色のシミを付けた骨のおもちゃを差し出す。

聞いているのか居ないのか、分からないが子犬達は興奮し、もみくちゃになりながらおもちゃを受け取ろうとする。


骨のおもちゃと同じ様な色の毛玉達が、行ったり来たりする中、一匹に骨が渡った。

取り合いを始める子犬達を眺めていると、ふと近くに影が立った。


「こ#$&’’(#%」


客人だ。代価を手に差し出しながら、子犬の一匹を指さす。


「申し訳ございません、こちらのモノ達は当店のモノではありません」


カロンが答えるが、客人は足をダンダンと踏み鳴らし、寄越せと言う。


「すみませんが、やり取りできるモノではないのです」


客人に言うが通じぬようで、代価の一つを台に叩きつけ、店前で転げまわる子犬に手を伸ばした。


「おやめください!」


思わず台を乗り越え、客人と子犬達の間にカロンは立ち塞がった。


「$%’’&$#!!」


客人が喚く。

他の客人や露天商の店主は、おろおろとするばかりで、止めに入る事が出来なかった。


客人の喧騒に怯えた子犬達は、アーチに向かって走る。

骨のおもちゃはしっかりと口に咥えていた。


白と薄茶色の混じった毛玉五つが走り去るのを、荒ぶる客人を押さえながらカロンは見送る。


「#$$%&#&%#”#$!!」

「無理なのです。いくら欲しても、無理なモノも…」


カランカランと代価が飛び出しては、客人からタイルの道へ落ちていく。


「あのモノ達は…ここでは換え…れな…」


押し止めて居るカロンの声が響き、子犬を欲する客人が代価をばらまきながら暴れ出した時、空から黒いモノが下りて来た。

それは手の形に成り、客人を掴むとすぅっと空へ上って行った。


掴れた客人は暴れたが、空の暗闇に消えていく。

解放されたカロンは大きなため息を付いた。


「疲れた…」


タイルの道に座り込み、頭を掻く。


「大丈夫か」


いつの間にか川に戻って来ていた船頭が、声をかけて来た。


「…あぁ…」


船頭に返事をしながら、空を見上げる。

青と紫色の空はいつも通りに戻っていた。


その空の先を、カロンは知らない。

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