襲来する街
「わふん」
「わふうぅん」
アーチの下から白のまんまるとしたモノが二つ出て来た。
「わうん」
「わおん」
「きゅんっ」
それに続いて、薄茶色いまんまるとしたモノが三つ。
いつもは何が現れても興味のない、客人や露天商の店主達がそちらを向く。
店の台に肘を付いていたカロンも、それに倣って目を向けると、そのまんまるとしたモノ達は一直線に店に向かっているようで、どんどん近付いて来た。
「あぁ…」
カロンはそれの正体にすぐさま気が付いた。
白に薄茶色が混じった毛並みの小さな毛玉。
一瞬そう見える、まんまるな五つのモノは、子犬だった。
わっふわっふと口々に良いながら、店の前まで走って来る。
まるで流星の様に走る子犬達に、街のモノ全てが目を奪われた。
「お待ちしておりました。皆さま」
店先に並ぶ五匹に、台の上からカロンが声をかける。
短めの尻尾を振り振りする毛玉達に、いつもは仏頂面のカロンも頬が綻ぶ。
「わんっ」
一匹が脚を台にかけようとしては爪が当たる。
その一匹に我先にと乗り、他の子犬達が団子の様にもぞもぞと行ったり来たりした。
「リック様からのお品物をお渡しいたします」
白い茶色のシミを付けた骨のおもちゃを差し出す。
聞いているのか居ないのか、分からないが子犬達は興奮し、もみくちゃになりながらおもちゃを受け取ろうとする。
骨のおもちゃと同じ様な色の毛玉達が、行ったり来たりする中、一匹に骨が渡った。
取り合いを始める子犬達を眺めていると、ふと近くに影が立った。
「こ#$&’’(#%」
客人だ。代価を手に差し出しながら、子犬の一匹を指さす。
「申し訳ございません、こちらのモノ達は当店のモノではありません」
カロンが答えるが、客人は足をダンダンと踏み鳴らし、寄越せと言う。
「すみませんが、やり取りできるモノではないのです」
客人に言うが通じぬようで、代価の一つを台に叩きつけ、店前で転げまわる子犬に手を伸ばした。
「おやめください!」
思わず台を乗り越え、客人と子犬達の間にカロンは立ち塞がった。
「$%’’&$#!!」
客人が喚く。
他の客人や露天商の店主は、おろおろとするばかりで、止めに入る事が出来なかった。
客人の喧騒に怯えた子犬達は、アーチに向かって走る。
骨のおもちゃはしっかりと口に咥えていた。
白と薄茶色の混じった毛玉五つが走り去るのを、荒ぶる客人を押さえながらカロンは見送る。
「#$$%&#&%#”#$!!」
「無理なのです。いくら欲しても、無理なモノも…」
カランカランと代価が飛び出しては、客人からタイルの道へ落ちていく。
「あのモノ達は…ここでは換え…れな…」
押し止めて居るカロンの声が響き、子犬を欲する客人が代価をばらまきながら暴れ出した時、空から黒いモノが下りて来た。
それは手の形に成り、客人を掴むとすぅっと空へ上って行った。
掴れた客人は暴れたが、空の暗闇に消えていく。
解放されたカロンは大きなため息を付いた。
「疲れた…」
タイルの道に座り込み、頭を掻く。
「大丈夫か」
いつの間にか川に戻って来ていた船頭が、声をかけて来た。
「…あぁ…」
船頭に返事をしながら、空を見上げる。
青と紫色の空はいつも通りに戻っていた。
その空の先を、カロンは知らない。




