ブリリアント毛玉
露天商の店主、カロンは店の奥にある長椅子に寝転んで、目を閉じていた。
眠る事が無く、瞼の裏に浮かぶ情景だけを眺めている。
この前、迷い子と関わってから、いつも以上に気分がパッとしない。
カロンは気が重く感じていた。
やる気が出ないのはいつもの事だが、それ以上に。
目を開けてはため息を付き、目を閉じてはため息を付いていた。
ドフン
店の台に何かが当たる音がした。
ドフン…ドフン
ゆっくりとダルそうに起き上がり、近付くと台の下辺りに小さな白い毛玉が動いていた。
それが店前に何度も体当たりしている様だ。
「なんだ?」
カロンはよく見ようと台の下を覗き込む。
小さな毛玉から二本、にゅっと腕が伸びた。
よく見ると毛の長い犬が、前足を台にかけようと伸ばしていた。
台の上の敷物に届くギリギリで、爪がぶつかりカチカチと音を鳴らす。
「フヒュウゥン」
情けない声を出しながら、口に咥えた物を渡そうとしてきた。
受け取るとそれは、骨の形をした犬用のおもちゃだった。
毛とよだれの跡で薄汚れ、破れかけている。
「これを…渡せば良いのだな?」
カロンの声に「ワンッ」と元気に返す。
「必ず渡そう」
白い犬は尻尾を大きく振ると、丁度戻ってきた船頭の船に飛び乗った。
そして、行儀良くお座りをすると、遠吠えを一度だけした。
それを合図に周りの露天商の店主達が手を振り、船がゆっくりと動き始める。
白く艶めく毛が露店のランプの光を受け、丸く輝く。
後ろにふわふわと抜けた毛が舞い、流星の尾の様にたなびいた。
水面が遅れて流れる双生の…星の片割れの様に煌めきながらたなびくのを店主達が見守り、船が見えなくなった頃、街は賑わいを取り戻す。
カロンは受け取った骨の形のおもちゃを、台の真ん中にそっと置いた。
ドッグフードの匂いと薄茶色いシミが付いた、白い布で作られているおもちゃ。
縫い目に整っている場所と歪な所がある。
誰かの手作りに、修繕に…修繕を重ねた物の様に見えた。
縫い目を指先で撫でると、カロンはふっと笑った。
「…すぐに…来るだろう…」




