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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
カロンの息抜き

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帰り道

「お姉ちゃんが!!助けて!」


沈みゆく姉を目の前に、直が助けを求めた。


「無理だ」

「なんで!?大人やんか!お姉ちゃんを!!」

「無理だ!」


目に涙を浮かべながら、自身の腕の中であがく直をカロンは押さえ続けた。

直の目の前で、美香は沈んでいく…。

最後の小さな指が水に消えた時、弟の力が抜けた。


「…なんで…?」

「この川は普通の川ではない…入れば…最期…だ…」

「さいごって…なに?」

「帰れん…」

「お姉ちゃんは…」


カロンは力の抜けた弟を抱き上げ、アーチの下へ連れて行った。


「お前は…戻れ」

「嫌や…お姉ちゃんが…お姉ちゃんと一緒が…」


泣きながら抵抗する直を押し込めようとしていたその時、後ろから水の音がした。

船頭の船が帰って来ていた。


「よう、カロン」


船頭が声をかける。


「迷い子の1人が川に落ちたみたいだな」

「あぁ…」


直の肩を持っている手に力が入る。


「ごねている小僧に見せてやれば良いんじゃないか?」


船頭は船に座り、薄ら笑いを浮かべた。


「…お姉ちゃん助けてくれんの?」


直の涙がタイルの上にぽたぽたと落ちた。

船頭が櫂で水面を軽く叩く…。


ぴちょん…ぴちょん…


波紋が広がって行く。


「…もうどうする事も出来ないんだ…」


カロンは船頭と直に告げる。

船頭は水面を叩くのを止めた。


「さ…戻りなさい」


カロンが直の背を押す。


「待っ…あっ…」


アーチの下を通ると直の姿は消えた。


「姉の最期の思いなど…子供に見せてどうする」

「納得するかと…な」


カロンは船頭の言葉にため息を付く。


「母親の…意図した性別ではなく生まれた為に疎まれた子供の心など…知らなくて良い事だ」


そう言って自分の店に戻るカロンの背を、船頭は船の上から見送りゆっくりとまた、船着き場に居る客人を乗せ川を流れた。


アーチの下を通り戻った直は、目覚めると病院のベッドの上に居た。


口々に「良かった」と自分を抱きしめ、喜びの言葉と涙を見せる両親の向こうに、ベッドに横たわる姉の姿を見た。


青白い彼女のベッドの横に、荷物はおろか椅子すらも無く。

医者と看護師が、只々複雑そうな顔をして立って居た。

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