姉と弟
弟は姉の後を追った。
「お姉ちゃんちゃうし。なりたくてなった訳ちゃうし」
ぶつぶつと言いながら、カロンに近付いて来た。
ここでいきなり立ち上がり、店に戻るのも違うなと考えたカロンは、もうしばらく2人の様子を見ようと、その場を動かなかった。
姉は近付いて来た。
「なぁ。ここってなんなん?」
姉が声をかけて来た。
「…ここってなんなんか、知ってる?」
カロンの顔を覗き込む様な仕草で、もう一度声をかけた。
「…さぁ…何だろうな」
「なんや…お兄さんも知らんのか…」
気落ちした声と表情をした少女がため息を付いた。
「でも、あそこよりマシやわ」
「…?」
「家。…私んちより…ずっとマシ。綺麗やし」
少女はカロンの近くにしゃがんだ。
腕を伸ばして触れるか触れないかの位置。
それが少女の「知らない者との位置」なのだ。
「お姉ちゃん!」
弟が少女とカロンの間に入った。
知らない者から守るかの様に。
「なお」
少女は弟の体を少し引っ張り、自分に寄せる。
「身乗りだしたら危ないで」
なんだかんだと言って、少女は姉の立場から離れられない。
「こっちは…なお、漢字で直って書いて直。私はみか。美しい香って書いて…」
自己紹介をし始める美香を手で制す。
「自己紹介は不要だ」
『迷い子』はここを去れば、街の記憶も無い。
カロンの事ももちろん、覚えてはいない。
なのだから…必要がないと言いたかったが、それを美香は自分への拒否と受け取ったのか、顔を暗くし謝った。
「ごめんなさい」
「いや…美香と言ったな」
「うん」
「謝らなくていいんだ。ここの事は…帰れば覚えていない…覚えていても夢だと思うだろう…。だから、不要だと言ったまでだ…」
子供の扱いに慣れていないカロンは、少し饒舌になる。
預かりモノに関する事ならば、冷静に対応も応答も出来るのだが…。
そもそも、人間との関りなど、預かりモノでの関りしかなく、大抵の場合一時の間で終わるので無理もなかった。
「お兄さんは?」
「カロン…」
「なんか美味しそうな名前…」
「直、あんたそれ、飴の名前やろ…」
先程まで一方的にではあったが、喧嘩をしていた姉と弟が笑い合う。
血の繋がりとは…こういったモノなのだろうか。と、カロンは空を見上げた。




