迷い子
どのくらい時が過ぎただろう。
カロンはもたれた姿勢を止め、衣服を整えた。
頭から腰下辺りまで黒く、そこから青にグラデーションで染まった、ゆったり目のカプチンに似た形の長衣。
そのフードを引っ張り、目深にするとアーチの元から一歩踏み出そうとした。
「姉ちゃん…ここどこ?」
横から幼子の声がした。
「知らんよ。見た事ないもん」
少女が答えた。
「客か?」
カロンはじっと斜め後ろから見下ろす。
幼子と少女は手を繋いでいた。
幼子は女児に見えたが男児の様で、姉の手を離すまいと身を寄せている。
両方共、代価が見えない。
「とすると、客ではないな」とカロンは考えた。
大方『迷い子』かも知れないな…と。
この街にもたまに預かりモノとも、露店にも関係のない『迷い子』が訪れる。
不意に来てしまうのだ。
大抵はすぐに帰り、ここの事も忘れる。
なので、客人はおろか露天商の店主達も『迷い子』は放っておく。
船頭もカロンも例にもれず、見かけても関りはしない。
『迷い子』は代価を持ってはいるが、使えない。
そもそも、当人が『代価の在処』が分からないので、出す事が出来ない。
出す事が出来るのは…『迷い子』ではなく、店主か客人になり得る者…そして川を渡る者だ。
「いつも通りすぐ居なくなるだろう」と、カロンは眺めながら思う。
それでも『迷い子』の事は気になる様で、追い越した後もタイルの道からチラチラと、アーチの下から動かない2人を見た。
声の届く範囲ギリギリまで距離を取り、川べりのタイルの道に座る。
周りは怪しむことは無い。
皆、自分に忙しい。
「ねぇ…帰ろう…」
涙目の弟が服を引っ張っているが、姉の方は応じない。
「待ってぇや。こんなとこ初めて見たやん。冒険せん?」
逆に目をキラキラさせて、街を周ろうとしていた。
「お母さんが心配するし…」
弟がそう言った瞬間、姉は掴んでいる弟の手を勢いよく振り払った。
「じゃあ、あんただけ帰りいや」
睨みつけ、語尾が強くなる。
何が逆鱗に触れたのか、何が気に障ったのか、子供の事は分からんな。とカロンは観察し続けた。
「お母さんが心配すんのはあんたの事だけやで、なお」
「そんな事…」
無いと言い切らない部分に、さらに苛立ちを隠しきれない少女は、弟を置いて川の方へ歩いた。
「待ってお姉ちゃん」




