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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
青い雫のネックレス

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実家

連れ戻されてからの日々は、真奈美を不幸に突き落とした。

まず両親はクロを捨てた。


「汚い猫なんか飼うからだ」


真奈美が家を出るまでは、自分達も一緒に過ごした筈のクロを、ある日何処かへ置き去りにしてきたのだ。


「どうして!クロをどこへやったの!?」


真奈美は泣きながら両親に訴えたが、聞く耳は持たれず、クロは行方不明になってしまった。

家を出ていた間に家賃や生活費を切り詰め、クロに何かがあった時の為にと溜めた貯金を使い、彼女は探偵や猫探しをしてくれる会社に依頼し、チラシを作り出来る限りの事をした。


だが、クロは見つからなかった。


実家では両親の喧嘩が増え、勤めていた会社も両親によって辞めさせられていた。


「お父さん…お母さん…もう…家を出ないから…出ようとはしないから…お願い」


真奈美は反抗した自分を責め、両親に許しを請うた。


「お願いします。クロを…返して」

「…では、この会社に就職して、この人と結婚して、子供を二人は産みなさい」


真奈美の目の前に、会社の資料や男性の写真が置かれた。

親族の会社とその会社の跡取りだった。


真奈美の両親は、彼女の未来を決めたがっていた。

幼い頃からピアノや習字を習わせ、友人を作るよりも、遊ぶよりもまずは勉強と押し付けてきた。


中学高校大学とエスカレーター式の学校に入れられ、人付き合いは無難に出来るが、深い付き合いにはなれず、街で群れる男性にも苦手意識を持ち、男性自体に慣れていない彼女…。

唯一許されたのが『クロ』だけだったのに…それすらも人生の決定権を両親に委ねる取引に使われた。


しかし、それでも真奈美はクロが大事だった。

自分の人生がどんなものになろうと、クロさえ生きて一緒に居れたら…幸せに思えた。


「分かった」


真奈美は両親に従う事を伝えた。

1週間後、両親はクロを連れて帰って来た。

一緒に過ごして来たクロは…行方不明の間に他の野良猫と喧嘩をしたのだろう怪我をして、猫エイズにかかっていた。

艶のあった黒い毛も血で汚れ、綺麗だった肉球も傷だらけになってしまっていた。

真奈美はすぐさま病院へ連れて行ったが、怪我は治ってもエイズは治らないと医師に告げられた。


「ごめんね…クロ」


そこから両親の言う会社へ勤め、跡取りの男と見合いをした。

自分が目を離した隙に、両親がまたクロを捨てる気ではないかと、疑心暗鬼に陥った彼女は自分の部屋に鍵を付け、クロを部屋の外へ一歩も出す事は無かった。

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