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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
カロンの息抜き

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47/91

制約

露天商の店主、カロンは店の台の上で項垂れていた。

目の前にあるガラス管には光はもう無い。

空っぽだった。


「はぁ…」


ため息が止めどなく出てくる。


「おい、カロン」


船頭が声をかけて来た。

行ったり来たりがひと段落したらしい。

顔はフードで見えないが、何となく疲れているんだなと思う。


「どうした…?」


船頭が声をかけて来るので、邪魔臭いなとカロンは思い、無言で空になったガラス管を指差した。

無垢の魂に付き合って「預かりモノ」探しの時に、消えてしまった代価。


「…なら…」


船頭が代価を二つ放り投げて来た。


「配達料と珈琲代だ。…珈琲をくれ」


目の前に転がる代価を手に取り、ガラス管へ入れた。


「分かった」


カロンは店の中で珈琲の豆をひき、2人分淹れた。

立ち込める香りが、店の外にまで流れ出す。

船頭はタイルの道に船体の横を着け、櫂を置いた。


カロンが珈琲を二杯持ち、店を出ると代価が一つ消えた。

すぅっと船頭の側へ行き、一杯を差し出す。


「俺もお前も制約が邪魔くせえな」

「仕方ない」


船頭は受け取りながら愚痴るが、カロンは受け流す。

そして、船頭は船の上に、カロンはタイルの道に横並びに座った。

珈琲の良い香りに、船頭は安堵した様な吐息を漏らした。


船頭は船から降りられない。

カロンは代価が無ければ店から出られない。

お互いの制約は神からの制約であり、破る事は出来なかった。


とは言ってもカロンの場合、預かりモノの依頼者から必要に駆られれば、受け取る事も出来る。

船頭への渡し賃の様に「他者の手に渡るのならば一時的に」だが。


しかし、自分のガラス管に入れられる代価は、やり取りをした『代価』だけだった。

そして、店から出るにはガラス管にある『代価』から支払わなければならない。

邪魔くさいがそれが、カロンに科せられた制約と言うモノだった。


その制約の中で、船頭が時折放り投げてくる「土産」だけが、唯一代価が絡まないモノだった。

この街の中でも唯一。


何故なら、他の露天商の店主は「代価」を受け取らずに、モノを渡す事は絶対にしない。

かと言って、たまに揶揄いはするが、やり取りの範疇に入らない「預かりモノ」を預かり、渡すカロンの事も「橋渡し役」くらいの認識で、下げずんだりはしない。

受け取る者の事も。


ただ…モノを預ける側の事は、時に哀愁の念と慈しみを持って見ていた。

自分達には無い「無償で」のモノの渡し。

自分達が持たない「他者への思い」を持つ存在。


しかし、皆…他の周りの事など、正直どうでも良いのだ。

代価さえ手に入れば…それで…他はどうでも。


だから、哀愁の念と慈しみも、目の前からいなくなれば消える。

そうして、また「代価」を求める日常に戻って行く。


それを気が済むまで…去る日まで、続けていく。

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