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不思議な露天商  作者: 樋口 涼
白い蝶

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何かとは何か

色とりどりの宝石が散りばめられ、黄金に近い色をしたアーチの下に、彼女は気が付けば立って居た。


目が眩むような輝きのアーチの先には、青と紫の空が美しく広がっており、その空を露店のランプや蝋燭が照らしている。

彼女は茫然とした。

さっきまで自分が居た所とあまりにも違う。


「…病院の屋上に居たのに…」


自分は…飛んでしまったのかと思う。

悲しみのあまり、あの子の元へ…と。


辺りを見渡すと、一つの露店に目が行った。

ひらひらと白い…輝く蝶がガラスの籠で舞って居る。


「病室にも…迷い込んで来た事があったわね…」


窓を開けた瞬間に、舞い込んだ蝶。

アリスも一緒に見ている気がして、追い出さずに眺めた。

ゆっくりとしたひと時。


「お待ちしておりました。ジェシカ様」


いつの間にか彼女は、露天商の店主が立つ店の前に居た。


「アリス様からの…お品物をお渡しいたします」


ジェシカが返事をする間もなく籠が開かれ、中から蝶がふわりと出て来た。

光を身に纏った様な、白い羽をひらひらとさせ、ジェシカの周りを飛ぶ。


「綺麗…」


蝶がランプの光を受け、美しく煌めきを見せる。


「リシャールさん…」


ジェシカは気が付けば屋上に居た。

声をかけて来たのは担当してくれていた医者だった。


「先生…」


我に返り、さっきの風景は夢だったのかと思う。

何か大切なモノを手にした気がしたのに、何も…持ってはいなかった。


しかし、今…ご愁傷さまでしたとか、頑張りましたとか身内を亡くした者への一般的な言葉は欲しくないと思った。

母親である自分を労う言葉も…聞きたくはない。

医者が言葉を発そうとする息遣いが聞こえ、ジェシカは目を瞑る。


「いい…天気ですね」


医者は空を見上げていた。


「あの子の…笑顔が思い出される…」


目を細め、ジェシカの方へ向いた医者の顔に涙の跡があった。


「えぇ…そうですね」


なんとなしに返事を返したが、ジェシカの中にもアリスの笑顔が浮かぶ。


「見上げる度に…いつでも、思い出すでしょう…」


医者はそう言って会釈した。


「えぇ…私も…」


ジェシカも頷き、会釈を返す。


「では…さようなら」

「さようなら…先生。…ありがとうございました」


去る医者の背に、ジェシカは深々と頭を下げた。

その時、ポケットにある携帯が鳴った。

元夫からだった。


「はい」

「ジェシカ…この度は…」

「何の用?」


言葉を遮り単刀直入に聞く。


「いや…あの」

「お悔やみなら聞きたくないわ」

「…あ、その…俺達やり直さないか?」


身勝手な声に怒りがわいた。


「何を言っているの?子供が生まれたんでしょう?無責任な事を…それに、あなたはもう『元』なの」

「いや、あの、違うんだ」

「違うって何が?」


子供は生まれたが、また入院する状態で生まれ、妻と関係が悪化した事。

そして両親とも関係が悪化し、居場所が無い。と、電話口で話始める。

ムカムカとする気持ちを、言葉に乗せて出そうとした瞬間、目の前を白い蝶が飛んだ。


「…」

「ジェシカ…聞いているのか?俺と…やり直してくれ。俺を助けてくれ。お前だけを愛してるから…」

「私は愛していないわ…さようなら」


電話口から喚く声が聞こえたが、そのまま電話を切った。


「私は、私らしく…生きるのよ。…アリスを思いながら…」

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